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調査研究内容の概要(令和5年度)

5-1 令和4年度に保留となった牛伝染性リンパ腫の疫学解析
5-2 豚腎病変と血液生化学検査の相関について
5-3 成牛に認められた非定型牛伝染性リンパ腫(散発性)の一例
5-4 と畜場に搬入された豚のEscherichia albertii 保有状況及び分離株の解析
5-5 牛のと畜検査に関するデジタル教材作成の試み
5-6 牛肝臓及び胆汁から検出されたCampylobacter jejuniの遺伝子型別試験及び薬剤感受性試験
5-7 尿毒症を疑う牛の血中尿素窒素値スクリーニング検査法の検討(続報)
5-8 豚の小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた取組
5-9 三陰三陽論から考える豚丹毒の4つの病型
5-10 豚の小腸にみられた多核細胞を伴うB細胞性リンパ腫の一例
5-11 豚盲腸便からEscherichia albertiiの分離方法についての一考察
5-12 豚丹毒菌の遺伝学的解析について
5-13 タブレット等を活用した業務の効率化について

5-1 令和4年度に保留となった牛伝染性リンパ腫の疫学解析

牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)はレトロウイルス科に分類され、牛伝染性リンパ腫(EBL)の原因ウイルスである。本研究では、当所においてEBL(胸腺型を除く)の疑いで保留となった牛が保有するBLVの遺伝子解析を実施し、BLVに関する新たな疫学的知見を得ることでBLV清浄化等の一助とすることを目的とした。BLVpol遺伝子及びRPPH1遺伝子においてマルチプレックスリアルタイムPCRを行い、感染細胞率を算出し、リンパ球数及び感染細胞率において相関分析を実施した。その結果、正の相関(r = 0.353)が認められた。また、ダイレクトシークエンス法でBLVenv-gp51遺伝子の塩基配列解析を実施した。その結果、BLV遺伝子型の内訳は、60検体中G1が59検体(98.3パーセント)及びG3が1検体(1.7パーセント)であった。なお、今回の研究でG3に分類された1例は、神奈川県の農場から出荷された牛であった。本研究での結果を踏まえ、改めて徹底した摘発淘汰及び踏み込んだ防疫対策を実施する必要性が示唆された。

5-2 豚腎病変と血液生化学検査の相関について

豚の尿毒症を疑う場合、腎臓の肉眼所見が主な判断材料となるが、多様な腎病変を迅速に判断することは困難である。そこで、豚腎病変の肉眼所見と血液生化学検査の相関を調査し、肉眼所見による判断の指標について検討した。腎病変を認め血液生化学検査を実施した豚62頭を調査した結果、腎炎を認めた症例で、皮髄が不明瞭な場合は血中尿素窒素(BUN)値が高い値を示した。点状出血がみられた症例で、皮髄の境界が明瞭な場合ではBUN値が高い値を示した。これらのことから、腎炎を認めた症例は割面を確認することが重要であり、点状出血を認めた症例で判断が困難な症例は保留することが望ましいと考えられた。

5-3 成牛に認められた非定型牛伝染性リンパ腫(散発性)の一例

牛伝染性リンパ腫は、多くがBLV陽性の地方病性牛伝染性リンパ腫であるが、当検査所においてBLV陰性かつ非定型的な肉眼所見及び血液検査所見を呈した症例に遭遇したため、その組織学的特徴の報告を目的とした。病理組織学的検索の結果、B細胞性リンパ腫であることが確定し、動物腫瘍WHO分類に基づき、組織診断名を「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」とした。また、当検査所でよくみられる肉眼所見を認めず、年齢や病変の形成部位が子牛型、胸腺型、皮膚型のいずれの型にも該当しなかったことから、疾病診断名を「非定型牛伝染性リンパ腫(散発性)」とした。今後もさらなる症例の蓄積及び解析・周知を行い、と畜検査での診断技術向上に努めていきたい。

5-4 と畜場に搬入された豚のEscherichia albertii 保有状況及び分離株の解析

芝浦と場に搬入された豚のEscherichia albertii(E.albertii)の保有状況調査及び分離株の病原性、薬剤感受性試験を行った。令和5年は、24出荷者100頭の盲腸便を増菌培地にN-CTmTSB培地を用いて分離を行ったところ、13出荷者(54.2パーセント)20頭(20.0パーセント)からE.albertiiが20株分離された。令和3から5年に分離された合計25株について、遺伝子学的同定を行ったところ、人への病原性に関連する遺伝子を保有していた。また、ディスク拡散法による薬剤感受性試験では、25株中23株が何らかの薬剤に耐性を示した。同一出荷者で複数頭から耐性菌が分離され、同じ耐性パターンを示す株と、異なるパターンを示す株があり、農場内で薬剤耐性を持った株が蔓延していることが示唆された。

5-5 牛のと畜検査に関するデジタル教材作成の試み

当検査所での新任検査員の検査技術及び知識の習得は、ベテラン検査員によるOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)が中心であり、その補完として所内資料や学術書等を活用している。しかし、OJTは指導側の資質に依存し、補完資料は文字情報での所見も多いことから、症例の特徴が把握しにくい傾向にあり、新任検査員の獲得する技術及び知識にも影響を与えている。本調査では、これらの課題を解消するため、昨年度から始動した「未来型オフィス実現プロジェクト」及び「芝浦DX(デジタル・トランスフォーメーション)」を活用し、既存症例数の少ない生体及び枝肉検査所見を中心にデジタルアトラスを作成した。本取組により、文字情報での所見が可視化され、検査員の視覚的理解が向上し、ベテラン検査員の豊富な知識や着眼点を他検査員に共有することが可能となった。次年度は、今年度作成したデジタルアトラスをOJTの現場で活用し、全ての検査員の資質向上に貢献していきたい。

5-6 牛肝臓及び胆汁から検出されたCampylobacter jejuniの遺伝子型別試験及び薬剤感受性試験

Campylobacter jejuni(C.jejuni)は加熱不十分な食肉等を喫食することで感染し、ヒトに下痢や発熱等の症状を引き起こす食中毒細菌である。また、特定の遺伝子型でギラン・バレー症候群との関連性が示唆される他、薬剤耐性株の出現が近年問題となっている。本研究では、当所に搬入された牛200頭の胆汁からC.jejuniを分離し、遺伝子型別試験及び薬剤感受性試験を実施した。その結果、67頭からC.jejuniが分離され、遺伝子型の分布は人や鶏と異なる傾向であった。また、3種類の薬剤に対し、耐性率が増加していることが考えられた。本研究結果から、牛肝臓の衛生的な取扱いや薬剤の適正使用等について事業者及び消費者に普及啓発を行いたい。

5-7 尿毒症を疑う牛の血中尿素窒素値スクリーニング検査法の検討(続報)

と畜場法において全部廃棄の対象となる尿毒症は保留判断が難しいことから、令和4年度の調査研究で尿毒症を疑う牛について、現場での保留判断を補助するための簡便なスクリーニング検査法を検討し、枝肉残血を利用しアゾスティックスを用いた検査法が現場での判断に活用できる効果的手法であることがわかった。今年度は、より早い時点で保留判断をする方法として、いわゆる白物臓器での検査法を検討し、腸残血及び脾臓の血管で調査を実施した。腸残血では枝肉残血及び精密結果と近い結果が得られ、保留判断として有効であると考えられたが、検体数が少なく、今後も検体数を増やして確認をする必要があり引き続き検討をしていきたい。

5-8 豚の小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた取組

昨年度、所内研修資料として紙面版の豚の腸炎カラーアトラスを作成した。今年度は、本アトラスについてアンケート調査を実施し、得られた意見に基づいて、アトラスの内容を修正し、タブレット端末上で閲覧可能な電子版腸炎アトラスアプリを作成した。さらに、Microsoft Access 2016を使用して検索機能のある腸炎アトラスデータベースを構築し、アトラスの利便性や画質の向上等に取り組んだ。また、診断・廃棄基準の平準化を図るため、多様な病相を呈する腸病変のうち、増殖性腸炎に焦点を絞り、廃棄基準案を作成し、目合わせ研修を実施した。これにより、と畜検査の精度向上に繋げることができた。今後も腸炎カラーアトラスを活用して検査員の知識・技術の向上と統一化を図り、生産者に有益な情報をフィードバックすることで、安全な食肉供給を推進していきたい。

5-9 三陰三陽論から考える豚丹毒の4つの病型

豚丹毒の4病型(急性型2型:皮膚型と急性敗血症型、慢性型2型:関節炎型と心内膜炎型)の病態についてより理解を深めるため、三陰三陽論(病期をその時間的進展により6段階に分類する)用いて整理を行った。皮膚型の症状は、1番目の病期(太陽病)に当てはまった。もう一方の急性型である急性敗血症型の症状は、死に近い病期(陰病)である。急性型2型の違いは、今ある病期の差であり、それは病原体に対する生体の防御力の強弱に起因すると考えた。慢性型2型の病期についてはより一層の検証を要するため、今後の検討課題とした。今後、豚熱をはじめとする他の感染症についても検討していきたい。

5-10 豚の小腸にみられた多核細胞を伴うB細胞性リンパ腫の一例

豚のリンパ腫はリンパ節に発生することがほとんどであり、消化管を原発とする消化器型リンパ腫が発生することは極めて稀である。今回、当検査所において豚の小腸に多核細胞を伴うB細胞性リンパ腫の症例に遭遇したため、報告する。
症例は6ヵ月齢の去勢豚で、肉眼所見では回腸に7.5×6.0×3.0センチメートルの桃白色腫瘤を認め、大網の一部を巻き込んでいた。また、組織所見では、N/C比に乏しく異型を示す類円形腫瘍細胞がびまん性に増殖しており、単核で大型明瞭な核小体を有するHodgkin細胞及び鏡像を示す2核または多核の細胞であるReed-Sternberg細胞の両方に類似した細胞を認めた。免疫組織化学染色ではCD20及びvimentinに陽性を示したことから組織診断名を「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」とした。

5-11 豚盲腸便からEscherichia albertiiの分離方法についての一考察

豚盲腸便からのE.albertiiの分離率を向上させるために、選択的増菌培地としてNCT-mTSBと従来法のmECの比較を行った。102CFU/ミリリットル、103CFU/ミリリットル及び104CFU/ミリリットルになるように調整したE.albertiiの菌液を豚盲腸便に添加し、NCT-mTSB培地とmEC培地で選択的増菌を行いラムノース・キシロース加MaConkey 培地で分離を行ったところ、NCT-mTSB培地ではすべての菌液濃度でE.albertiiを分離することができた。一方で、mEC培地での増菌ではE.albertiiを分離することはできなかった。このことにより選択性の高いNCT-mTSBの有用性が示唆された。

5-12 豚丹毒菌の遺伝学的解析について

当所で豚から分離された豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)についてMultiplex PCR法による血清型別検査と一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)5カ所を検出するPCR法(SNPs検出PCR法)によるワクチン株の識別を行った。血清型は、1a型が44株、1b型が2株、2型が19株、1a/2型が1株、不明が2株だった。血清型1a型と1a/2型の菌株45株についてSNPs検出PCR法を行ったところ、ワクチン株と判定された株は24株(54パーセント)で、ワクチン株と判定された菌株は全て慢性型の関節炎型由来だった。また、血清型1a型の野外株が亜急性の蕁麻疹型に加え、慢性型である関節炎型及び疣心型を引き起こすことが明らかとなった。

5-13 タブレット等を活用した業務の効率化について

令和3年6月の改正食品衛生法及びと畜場法の本施行に伴い増加した業務や、流行する豚熱などへの危機管理体制を改善・効率化し、都民等へのQOS(クオリティ・オブ・サービス)向上を図るためDXを実施した。
「食品衛生監視」、「外部検証」、「危機管理対応」の各分野において、タブレット、ローコードタイプのクラウドサービス、Web会議システムなどを組み合わせ、システムやリアルタイムでの通信体制等を構築したことで、監視指導や事務処理時間の短縮、ペーパーレス、封鎖された感染症発生現場との円滑な情報共有等を達成した。
今後も当所各業務分野の更なるDXや業務改善による一層の効率化を図るとともに、都民や事業者が実感できるようなサービスの向上に取り組んでいきたい。

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このページの担当は 芝浦食肉衛生検査所 管理課 業務担当 です。

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