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調査研究内容の概要(令和3年度)

3-1 豚の扁桃におけるStreptococcus suisの保有状況調査

3-2 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の分類(第二報)

3-3 芝浦と場に搬入された牛の牛伝染性リンパ腫ウイルス抗体保有状況調査及び血球数の比較

3-4 牛の腹腔内寄生線虫類の発生状況

3-5 豚におけるサーモグラフィカメラ撮影マニュアルの作成

3-6 豚糞便中のEscherichia albertii保有状況調査について

3-7 LC-MS/MSによるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(牛筋肉)の妥当性評価について

3-1 豚の扁桃におけるStreptococcus suisの保有状況調査

Streptococcus suis (S.suis)は豚やヒトに髄膜炎や敗血症等を起こす人獣共通感染症の病原体である。芝浦と場に搬入された臨床上健康な豚を対象にS.suisの保有状況調査と病原性解析を行った。健康豚の扁桃30検体中20検体(66.7%)からS.suisが分離された。得られた菌株でMultilocus Sequence Typing法による遺伝子型別を行ったところ、16種類20株のSequense Type(ST)が得られた。人に病原性があると考えられるST28は4株検出され、4株ともに莢膜血清型は人の症例で報告された2型であった。搬入豚の半数以上がS.suisを保有し、健康豚から人への病原性を示唆する株が検出されたことから、豚肉処理関係者等に対し感染予防のための衛生的な作業を行うよう注意喚起していきたい。

3-2 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の分類(第二報)

牛伝染性リンパ腫の病変出現の規則性について、東洋医学の概念を用いて検討を行った。当所でみられた牛伝染性リンパ腫(胸腺型を除く。)の牛363頭について、臓器およびリンパ節(計14部位)の肉眼病変の有無を集計し、多変量解析を用いて、病変部位を出現傾向により分類した。その結果、病変部位は「心臓・腎臓・内側腸骨リンパ節」と「脾臓・小腸・肝臓・縦隔リンパ節」の2グループに分類された。この分類には、東洋医学の臓象理論における臓腑の相関関係と整合する点が見られたため、前者を心腎グループ、後者を脾グループとした。また、東洋医学における病の進行状態を表す三陰三陽論に基づき、2グループの違いは病期の違いに起因するものと考えた。この結果を診断精度の向上に役立てると共に、今後も調査項目や解析手法を再検討し、さらなる病態の理解を図りたい。

3-3 芝浦と場に搬入された牛の牛伝染性リンパ腫ウイルス抗体保有状況調査及び血球数の比較

国内各地から牛が搬入される当所の特徴を活かし、黒毛和種及び交雑種200頭における牛伝染性リンパ腫ウイルス(以下BLV)抗体保有状況の調査を行うとともに、血球検査を実施し、BLV感染と血球数の関連性について調査した。その結果、BLV抗体陽性率は33.5%であり、過去の当所における調査研究結果と比較して増加していたことから、国内におけるBLV感染が蔓延していることが考えられた。また、品種別に陽性率を比較すると、黒毛和種が29.1%、交雑種が46.2%であり、交雑種で有意に高かった。白血球数、リンパ球数及びリンパ球比は抗体陽性牛で有意に高く、BLV感染によって血球数が増加していると考えられた。抗体陽性牛について、黒毛和種の判定基準であるJBの鍵を用いて持続性リンパ球増多症(以下PL)牛の判定を行った結果、35.8%がPL牛と判定された。定説では感染牛の約3割がPLを呈するといわれているが、それに近い結果となった

3-4 牛の腹腔内寄生線虫類の発生状況

牛の腹腔内に寄生するセタリア属糸状虫類は、と畜検査で日常的に認められるが、実態は不明な点が多い。2020年7月から2022年1月まで搬入牛を対象に寄生状況を調査した結果、検出率は0.20%であった。北関東・甲信と近畿地域の検出率はそれぞれ0.31%と0.33%で高い一方、北海道は0.02%と低かった。褐毛和種の検出率は、黒毛和種や交雑種よりも高かった。さらに、中間宿主の蚊の出現時期に対応する季節性が認められた。採取されたセタリア属糸状虫は形態学的に3種に判別された。本線虫類と、昨年度の調査で寄生を認めなかったテラジア属眼虫類との差異は、中間宿主の違い、駆虫薬への感受性の違い、待機宿主となる野生動物の存在などによると推測された。

3-5 豚におけるサーモグラフィカメラ撮影マニュアルの作成

国内で豚熱感染が拡大し、感染した豚が芝浦と場へ搬入されることが懸念されている。豚熱の特定症状の一つである40度以上の発熱を呈した豚を迅速に発見するため、当所ではサーモグラフィカメラを導入した。昨年度は、温度測定に適する体表部位を検討し、生体検査における体温異常豚のスクリーニングにサーモグラフィカメラが有用であることを確認した。今年度は、機器の設定及び撮影の要点を図や写真を用いてわかりやすくマニュアルにまとめた。担当者間でサーモグラフィカメラの操作手技の理解が深まり、活用できるようになった。今後も一頭一頭の確実な検査の実施に加え、新しい機器・技術を活用しながら食肉の安全確保に取り組んでいきたい。

3-6 豚糞便中のEscherichia albertii保有状況調査について

2003年に人獣共通感染症の新種として分類されたEscherichia albertiiは、腹痛、発熱や下痢を症状とする食中毒の起因菌であり、家畜や野鳥など自然界に広く分布している。当所の病畜と室でと畜された35出荷者豚122頭についてEscherichia albertiiについて調査したところ、 2頭(1.6 %)の豚の盲腸便から分離した。Escherichia albertiiによる大規模食中毒事件では、原因食品が特定できた例はほとんどなく、病原性のメカニズムについても不明な点も多い。今後は、検体数を増やし、当所搬入の豚から検出されたEscherichia albertiiの病原性遺伝子の有無や薬剤耐性についても調査を行い、Escherichia albertiiによる食中毒の発生機序の解明に努めていきたい。

3-7 LC-MS/MSによるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(牛筋肉)の妥当性評価について

アンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質は、動物用医薬品として疾病予防や治療に幅広く使用されているが、一方で、薬剤の食肉中への残留が懸念されている。そこで、通知試験法である「HPLCによる動物用医薬品等の一斉試験法3(畜水産物)」を基に、牛の筋肉におけるLC-MS/MSによる同時試験法の妥当性評価を行った。その結果、妥当性評価を行った6つの薬剤(アンピシリン、ベンジルペニシリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン及びドキシサイクリン)全てにおいて、妥当性評価ガイドラインの目標値に適合した。これを根拠に標準作業書を整備し、これらの薬剤の同時分析により迅速に検査成績を出すことが可能となった。

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このページの担当は 芝浦食肉衛生検査所 管理課 業務担当 です。

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