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調査研究内容の概要(令和2年度)

2-1 豚におけるサーモグラフィーによる体温測定法の検討

2-2 肺凍結切片におけるアーチファクト低減手法の検討

2-3 非接触型温度計を用いた暑熱環境下における体温異常牛抽出手法の検討


2-4 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の病態の検討

2-5 2019~2020年における牛の眼虫類の寄生状況

2-6 HACCP導入に向けた作業マニュアルの改定について

2-7 豚におけるStreptococcus suisの保有状況調査とMLST法による疫学的検討

2-8 牛の腫瘍病変についての症例検討

2-9 改変系統推定スクリーニング法の検証

2-10 LC/MS/MSによるABPC、PCG及びTCs抗生物質試験法(豚腎臓及び肝臓)の妥当性評価について

2-11 HACCP外部検証としての切除法を用いた微生物試験の実施にむけて

    (効率的な実施にための手技及び器具等の検討と基礎データの集積)

2-1 豚におけるサーモグラフィーによる体温測定法の検討

国内で豚熱感染が拡大し、感染した豚が当所へ搬入されることが懸念されている。昨年度、豚熱の特定症状である40℃以上の発熱を呈した豚を迅速に発見するため、赤外線を分析して温度分布を測定するサーモグラフィーを導入した。今年度は、サーモグラフィーの測定値と体温の相関を検証するためのデータを収集し、温度測定の好適部位及び測定値の評価法を検討した。その結果、生体検査におけるサーモグラフィーの活用は体温異常豚のスクリーニングに有用であった。サーモグラフィーを感染症発生時の適切な初動対応の一助とするため、今後も知見の集積に努め、確実な危機管理体制を構築していきたい。

2-2 肺凍結切片におけるアーチファクト低減手法の検討

凍結切片による病理検査を行うことは、迅速かつ正確な疾病診断を行う上で非常に重要である。肺では、肺胞に空気を含むため、薄切時に剥離や亀裂のアーチファクトが発生しやすい。そこで、組織固定法、シリンジ吸引法、組織固定及びシリンジ吸引法によるアーチファクトの発生する程度の比較を試みた。シリンジ吸引法では、50回程度の吸引でアーチファクトが顕著に低減した。組織固定法ではアーチファクトを低減できなかった。組織固定及びシリンジ吸引法ではアーチファクトが顕著に低下し、観察しやすい切片を作製することができた。綺麗な切片の作製は、正確な診断を行う上で非常に重要である。今後も引き続き検討していきたい。

2-3 非接触型温度計を用いた暑熱環境下における体温異常牛抽出手法の検討

非接触型温度計を用いて、牛に直接触れずに迅速に体表温度を測定し、直腸温度測定の必要な体温異常牛を抽出する手法を検討した。頭部表面温度は温湿度指数(THI)と正の相関関係にあり、THIが熱中症リスクの指標となることを示した。ばらつきの少なさ及び測定のしやすさを考慮した結果、最適な表面温度測定部位は傍涙腺であった。頭部表面温度と直腸温度との間には弱い正の相関関係があった。回帰式による予測は得られなかったが、非接触型温度計で頭部表面温度の異常値を検知することで、体温異常牛の抽出が可能であることが分かった。今後も、体表温度に影響する様々な要因を考慮しながら当手法による体温異常牛の迅速な抽出を検討していきたい。

2-4 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の病態の検討

当所で見られた牛伝染性リンパ腫(胸腺型を除く。)の牛291頭の肉眼所見について、東洋医学の概念に基づき病態の検討を行った。その結果、肝・心・脾・肺・腎のうち、腎臓で最も病変の出現率が高いことが分かった。これは、東洋医学における腎の蔵精作用が傷害されたことにより、腎臓に病変が現れたと考えられた。2臓器間の関連の検討では、肝臓と脾臓、肝臓と肺、肺と腎臓は同時に病変が見られる傾向にあることが分かった。臓器間の病理的影響として東洋医学における伝変を裏付けるものであった。今後は頭部リンパ節と臓器の病変の関連について検討するなどして、東洋医学の知見を活用し、効率的な診断に役立てたい。

2-5 2019~2020年における牛の眼虫類の寄生状況

当近年、米国で人の寄生例が初報告された牛のThelazia属眼虫類の寄生状況を調査した。1年以上をかけ、11,575頭の牛の眼球を目視検査したが、寄生は認められなかった。本線虫は1960年代まで全国的な流行を認めていたが、以後の報告はない。イベルメクチン製剤等、消化管内線虫駆虫薬の普及が功を奏したものと考えられる。また、衛生害虫対策の進歩に伴う中間宿主(イエバエ類)の減少や、保有宿主と接触が少ない牛の飼育形態など、近代畜舎の環境的要因が生活環を阻害している可能性も推測される。本結果より、我が国における牛の眼虫類の人への感染リスクは低いと考えるが、生産現場で働く人の予防安全上、今後も注視すべき疾病である。

2-6 HACCP導入に向けた作業マニュアルの改定について

東京都中央卸売市場食肉市場は平成31年度にHACCPを導入して以来、本年6月のHACCP本施行にむけ市場全体で衛生向上の取り組みを進めているところである。芝浦食肉衛生検査所においてもゾーン分けによる人の動線や従来の検査の手順、清掃、用具の管理などをHACCPに対応したものに変更するために再度検討を行った。
その結果、今まで不足していたダーティーゾーンと準クリーンゾーンの出入口の消毒槽の設置、清掃用具や薬剤の管理、大動物癒着台の消毒などについて検証を行い作業マニュアルを改訂した。今後も適宜必要に応じて作業マニュアルを改訂していく。

2-7 豚におけるStreptococcus suisの保有状況調査とMLST法による疫学的検討

豚やヒトに髄膜炎や敗血症等を起こす人獣共通感染症の病原体であるStreptococcus suisについて、搬入豚の保有状況調査と病原性解析を行った。臨床上健康な豚の扁桃30検体中25検体(83.3%)、疣贅性心内膜炎を呈する豚の疣贅25検体中11検体(44.0%)からS.suisが分離された。MLST法の結果、20種類のSequense Type(ST)が得られた。また、疣贅由来の11株中10株がヒトにも病原性があると考えられるST1、ST28に、扁桃由来の25株中3株がST28に分類された。健康豚でも疾病リスクの高い株を保有していることが確認されたことから、食肉衛生に加え感染症予防の観点からも、生産者への注意喚起とともに、と畜場作業者などへの手袋、腕カバーの着用等の対策を働きかけていきたい。

2-8 牛の腫瘍病変についての症例検討

牛の腫瘍病変2例について詳細な病理学的検査を実施したので概要を報告する。
1症例目は、横隔膜、肝臓、肺を始め、胸腔及び腹腔の臓器・部位に腫瘤を認め、最大腫瘤は直径25センチメートルの右卵巣部腫瘤であった。腫瘍細胞は境界不明瞭な細胞質と類円形から卵円形の核を有しており、リンパ節及び実質臓器へ浸潤していた。卵巣割面は結合組織により蜂巣様構造を呈しており、鍍銀染色では、3から4個の腫瘍細胞を包含するように増生した細網線維を認めた。以上から、本症例を悪性顆粒膜細胞腫と診断した。
2症例目は、右心耳壁から心腔内に突出した約7 センチメートルの腫瘤を認めた。心臓腫瘤は、リンパ球様異型細胞及び線維組織によって構成されていた。免疫組織化学的染色では、腫瘍細胞はCD79αで陽性、CD3で一部陽性を示した。以上から、本症例をB細胞性リンパ腫と診断した。

2-9 改変系統推定スクリーニング法の検証

通知法にかわる残留抗菌性物質の系統推定スクリーニング法として、東京都健康安全研究センターで行われている逆相・カチオン交換ミックスモードカートリッジを用いた検査法の導入を目指し、手順の改変と適用性の確認を行った。
牛及び豚の筋肉及び腎臓を試料とし、5系統(ペニシリン系、テトラサイクリン系、マクロライド系、アミノグリコシド系及びニューキノロン系)合計8剤の抗菌性物質について検証した結果、アミノグリコシド系を除くすべての薬剤で残留基準値未満の検出が可能であった。アミノグリコシド系薬剤の検出感度向上が今後の課題である。

2-10 LC/MS/MSによるABPC、PCG及びTCs抗生物質試験法(豚腎臓及び肝臓)の妥当性評価について豚の動物用医薬品の使用状況について

食肉への残留が懸念される抗生物質について、通知試験法である「HPLCによる動物用医薬品等の一斉試験法3※(畜水産物)」(一斉試験法3※)を基に、豚の腎臓及び肝臓におけるLC/MS/MSによる同時試験法の妥当性評価を行った。
妥当性評価を行った6つの薬剤(アンピシリン、ベンジルペニシリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン及びドキシサイクリン)のうち、腎臓では6つ及び肝臓ではベンジルペニシリンを除く5つの薬剤が妥当性評価ガイドラインの目標値に適合していた。それを踏まえて、当所での標準作業書を整備し、これらの薬剤の同時分析により迅速に検査成績を出すことが可能となった。

2-11  HACCP外部検証としての切除法を用いた微生物試験の実施にむけて (効率的な実施にための手技及び器具等の検討と基礎データの集積)

従来、枝肉の衛生状況を確認する微生物試験は枝肉表面の拭き取りにより採材していた。今年度、枝肉の表面を無菌的に切り取って検体を採取する方法(切除法)が通知(令和2年5月28日付 生食発0528第1号)により新たに指定された。
切除法は拭き取り検査法と比較して手順が煩雑であると同時に、HACCP導入により実施頻度も多くなるため、効率的な作業手順となるよう検討を行った。
採材に用いる器具に改良を加え、培養に菌数測定用簡易培地を用いることにより、枝肉の商品価値を落とすことなく、効率的に試験を行えるようになった。
今後は継続してデータの集積を行い、適切な衛生管理指導を行えるようにしたい。

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このページの担当は 芝浦食肉衛生検査所 管理課 業務担当 です。

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