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調査研究内容の概要(令和4年度)

4-1 小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた研修資料の作成
4-2 牛肝臓及び胆汁のCampylobacter属菌等の保有状況調査
4-3 豚熱発生時対応封鎖マップの作成
4-4 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の分類(第三報)
4-5 牛の中皮腫の一例
4-6 尿毒症を疑う牛の血中尿素窒素値スクリーニング検査法の検討
4-7 豚の糞便中における食中毒起因菌の保有状況調査〔第5報〕
4-8 LC/MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)によるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(牛肝臓)の妥当性評価について
4-9 LC-MS/MS 8060による動物用医薬品等の一斉試験法の迅速化について

4-1 小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた研修資料の作成

豚の内臓検査において小腸及び大腸の病変はよく見られるが、衛生的なと畜検査の観点から、腸管を切開し、粘膜や内容物の状態を確認することが出来ない。しかし、腸管の病変は多様な病相を呈し、正確な診断には熟練を要するため、判断に苦慮する事例や判断基準の早期獲得が困難といった状況がある。内臓検査において一部廃棄した腸管を検体とし、担当内で目合わせ研修を行い、典型的な病変や研修資料として有用な7疾病24検体について腸炎カラーアトラスを作成した。今回作成した腸炎カラーアトラスをと畜検査未経験者の研修に活用することで、検査に必要な知識を早期に習得することが可能となる。また、目合わせ研修の実施により腸疾病についての理解が深まるとともに、廃棄に関しても担当者内で認識を共有することができた。今後は、作成した腸炎カラーアトラスの改良を図り、診断技術及び検査精度の向上に繋げていきたい。

4-2 牛肝臓及び胆汁のCampylobacter属菌等の保有状況調査

Campylobacter jejuni(C. jejuni)及びCampylobacter coli(C. coli)は、ヒトに対して下痢、腹部痙攣、発熱及び嘔吐を特徴とする消化器疾患を引き起こす食中毒細菌である。都立芝浦と場に搬入された牛の肝臓横隔膜面のふき取り液、胆汁及び肝実質をそれぞれ100検体ずつ採材し、C. jejuni、C. coli、大腸菌、大腸菌群及び一般生菌の保有状況を調査した結果、C. jejuni単体が約20検体(約20パーセント)、C. coli単体が約5検体(約5パーセント)、並びにC. jejuni及びC. coliが約5検体(約5パーセント)で検出された。肝臓横隔膜面のふき取り液から検出された大腸菌数、大腸菌群数及び一般生菌数の平均値±標準誤差は、それぞれ28.17±9.89、43.80±12.94及び626.68±311.89(cfu/平方センチメートル)であった。本結果を元に、と畜解体処理者、内臓処理業者及び消費者に、食中毒予防の観点から牛肝臓、胆嚢及び胆汁の取扱いに関する注意喚起を徹底したい。

4-3 豚熱発生時対応封鎖マップの作成

と場内で豚熱が発見された場合、人・物の移動による汚染の拡大を最小限に抑えることが重要である。そのため、初動対応として、「汚染区域の封鎖作業」を迅速かつ確実に行うことが求められる。今回、当所で過去に作成した炭疽発生時封鎖マップをもとに、小動物内臓処理室及び生体係留所周辺について、封鎖場所及び作業順路をまとめた封鎖マップを作成した。また、炭疽発生時に封鎖作業に用いていた粘着テープに代わり、各封鎖場所にフックを設置し、トラロープを使用したところ、封鎖作業が簡略化され、作業時間の短縮につながった。今後は、封鎖マップを年度当初の転入者研修等で周知することにより、職員の入れ替わりが生じても、危機管理体制を維持し、豚熱発見の際に常に確実に対処できるように努めていきたい。

4-4 東洋医学の考えに基づく牛伝染性リンパ腫の分類(第三報)

当所でみられた牛伝染性リンパ腫の牛122頭について、病変に気付いた検査ポイントと病変の程度が著しかった臓器・リンパ節について聞き取り調査を行った。結果、頭部検査(支配する臓器を持たないリンパ節の検査)において、57パーセントに病変が認められた。また、脾臓の病変が著しい個体数が心臓・腎臓の個体数を上回った。第一報・第二報の結果と本結果を併せ、東洋医学の考えに基いた考察を行った。牛伝染性リンパ腫は、東洋医学における脾の機能とされる消化機能及び水分代謝機能の障害に起因して発症する。解体後検査で見られる病態は、その伝達経路としての経絡が関与しているため、様々であると考察した。本結果及び調査過程で集計した各種データを症例集としてまとめ、診断基準の明確化に役立てていきたい。

4-5 牛の中皮腫の一例

牛(黒毛和種、雌、36ヶ月齢)の左右後葉辺縁部の肺胸膜及び壁側胸膜全域において、小豆大から拇指頭大の硬結感を伴う白色腫瘤が多数認められた。本症例の肺腫瘤病変について、組織切片を作製し、病理組織学的検索を実施した。腫瘤部位では、小型の上皮様細胞が豊富な結合織の介在を伴いながら、小胞巣から索状に浸潤増殖していた。この上皮様細胞は、細胞質が乏しく、クロマチン豊富な大小不同核を有し、しばしば多核を呈していた。さらに免疫染色では、CK7及びビメンチン陽性、TTF1陰性を示した。以上の所見より、「上皮型胸膜中皮腫」と診断した。中皮腫は、胸腔内や腹腔内の漿膜や臓器漿膜面に多発性の腫瘤を形成し、多彩な組織像を示す。他の臓器に原発した腫瘤との鑑別のためには免疫染色等を実施し、診断することが重要となる。今後も類似症例に遭遇した際には、積極的に診断して知見を広げ、検査員の診断能力向上に還元していきたい。

4-6 尿毒症を疑う牛の血中尿素窒素値スクリーニング検査法の検討

尿毒症はと畜場法において全部廃棄の対象となる疾病で、当所では年平均10頭が全部廃棄となっている。尿毒症は肉眼所見、枝肉の尿臭及び血中尿素窒素値から総合的に判断するが、臭いの感覚には個人差があるなど判断が難しい。そこで、現場での保留判断を補助するための簡便なスクリーニング検査法を検討した。その結果、枝肉残血を利用しアゾスティックスを用いた検査法では精密検査結果と近似した値が得られ、現場で十分活用できると考えられた。また、措置判断の一助とするため筋肉中の尿素窒素値測定法を実施したところ、筋肉中の尿素窒素値は血中尿素窒素値と近似していた。これらの検査法についてマニュアルを作成し、担当内に研修を実施した。また、経験の浅い検査員の保留判断の資料となるように、尿毒症の症例写真を撮影し、クラウド上のデータベースに保存して現場のタブレットで見られるようにした。

4-7 豚の糞便中における食中毒起因菌の保有状況調査〔第5報〕

 豚糞便中の食中毒起因菌保有状況及び薬剤耐性について調査を行った結果、病原エルシニアは120頭中20頭(16.7パーセント)、サルモネラは120頭中9頭(7.5パーセント)、Escherichia albertiiは80頭中6頭(7.5パーセント)から分離され、1剤以上の薬剤に耐性を示した株は、病原エルシニアで20株、サルモネラで6株、E. albertiiで3株であった。病原エルシニア及びサルモネラでは2剤以上に耐性を示す分離株の比率が過去の報告に比べ増加していた。豚糞便は、と畜場におけるHACCPに基づく衛生管理を実施する上で、重要な危害要因であることから、今後も豚糞便中の食中毒起因菌の保有状況及び分離株の薬剤耐性の動向把握に努め、その結果をと畜従事者等の事業者に対する衛生指導に活用し、豚肉の衛生管理向上を推進していきたい。

4-8 LC/MS/MSによるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(牛肝臓)の妥当性評価について

 アンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質は、動物用医薬品として疾病予防や治療に幅広く使用されている一方で、飼養管理上の問題等により食肉中への残留が懸念されている。そこで、通知試験法である「HPLCによる動物用医薬品等の一斉試験法3(畜水産物)」を基に、牛の肝臓におけるLC/MS/MSによる同時試験法の妥当性評価を行った。その結果、検討した6つの薬剤(アンピシリン、ベンジルペニシリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン及びドキシサイクリン)全てにおいて、妥当性評価ガイドラインの目標値を満たした。これを受け、これらの薬剤の同時分析により迅速に検査成績を出すことが可能となり、より多くの安全情報を都民・消費者へ届けることができるようになった。

4-9 LC-MS/MS 8060による動物用医薬品等の一斉試験法の迅速化について

 いわゆるポジティブ制度の施行に伴い、食肉衛生検査所においても多種類の動物用医薬品等の残留検査を行うことが求められている。そこで、当所では、LC-MS/MS 8040を用いて平成25年度に標準作業書「LC/MS/MSによる動物用医薬品等の一斉試験法1(芝浦改変法)」(以下「改変法」という。)を作成し、畜産物中に残留する動物用医薬品等の多剤同時分析によるモニタリング検査を行ってきた。今回、これまでモニタリング検査に使用してきたLC-MS/MS 8040に追加して、より高感度かつ高精度な機種であるLC-MS/MS 8060を新たに導入した。そして、当機によるモニタリング検査を実施するため、動物用医薬品等の一斉試験法の妥当性評価を行い、標準作業書を作成した。その結果、改変法と比べて、より短時間で、かつより多くの薬剤の残留検査が可能となった。

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このページの担当は 芝浦食肉衛生検査所 管理課 業務担当 です。

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