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災害被災者支援

災害被害者を支援する人の基本的態度と技法

1 「災害による精神保健医療上の問題」の理解

支援者は、まず、災害によってどのような精神保健医療上の問題が惹き起こされるかを理解しておく必要があります。

(1) 急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)

ア 災害発生直後から発症する。
イ 恐怖・不安・悲嘆などを回避するために感情が麻痺したり、注意集中が困難となる。苦痛な体験が繰り返し想起され、不安、抑うつ、激怒、絶望、過活動、ひきこもりなどが起こる。
ウ 通常、数日から数週間持続して治まる。

(2) 急性一過性精神病性障害

ア 災害発生後早期から現れる。
イ 統合失調症や躁鬱病の再発、及び精神病状態を呈する重度ストレス反応。原因は、災害のストレスの他、服薬の中断、生活環境の変化への不適応など
ウ 早期に対応することで改善・軽症化できる。

(3) 外傷後ストレス障害(PTSD:Posttraumatic Stress Disorder)

ア 災害発生後1ヶ月頃から発症
イ 病像の特徴

  • 悪夢やフラッシュバックによって外傷的出来事を反復体験する。
  • 外傷的出来事と関連した刺激を持続的に回避しようとする、あるいは反応性の鈍麻を示す。さらには感情が萎縮し、極度のうつ状態をきたしたり、未来に対して展望を持つことができなくなる。
  • 睡眠障害、易怒性、集中困難、過度の警戒心、驚愕反応、覚醒の持続的亢進を示す症状が認められる。
  • これらの症状は、強度の苦痛を伴うため、対人恐怖、性的困難、薬物依存、自殺などの障害が惹き起こされ、離婚や失職など日常生活が破壊されることもある。

ウ 約半数は3ヶ月以内に回復するが、適切な対応がなされないと遷延化する。

(4) 心身症、アルコール依存症など

ア 再建と復興に向かう時期に発症
イ 生活の見通しが立たない不安や焦燥感、今までの緊張や過労などが心身の不調として現れる。
ウ 個々の生活状況を踏まえ、具体的な将来展望の提供が必要となる。

2 「被災者の地域における心理的経過」の理解

被災者が被災地域の人々との関係の中でどのような心理状態や行動を示すか、また、それがどのように推移するかを理解しておくことも重要である。

(1) 茫然自失期(災害直後)

  • 驚愕・恐怖体験のため無感覚、感情の欠如、茫然自失の状態となる。
  • 自分や家族・近隣の人々の命や財産を守るために、危険をかえりみず行動的となる人もいる。

(2) ハネムーン期

  • 劇的な災害の体験を共有し、くぐり抜けてきたことで、被災者同士が強い連帯感で結ばれる。
  • 援助に希望を託しつつ、がれきや残骸を片づけ助け合う。被災地全体が暖かいムードに包まれる。

(3) 幻滅期

  • 災害直後の混乱がおさまり始め、復旧に入る頃
  • 被災者の忍耐が限界に達し、援助の遅れや行政の失策への不満が噴き出す。
  • 人々はやり場のない怒りにかられ、けんか等のトラブルも起こりやすくなる。
  • 飲酒問題も出現
  • 被災者は自分の生活の再建と個人的な問題の解決に追われるため、地域の連帯感は失われる場合もある。

(4) 再建期

  • 復旧が進み、生活の目処頃がたち始める頃
  • 被災地に「日常」が戻り始め、被災者も生活の建て直しへの勇気を得る。
  • 地域づくりに積極的に参加することで、生活の再建への自信が増向上する。
  • フラッシュバックは起こりえるが徐々に回復していく。
  • ただし、復興から取り残されたり精神的支えを失った人には、ストレスの多い生活が続く。

3 支援者としての基本的心構え

(1) 支援に向かう前に、まず自らの環境を整える

ア 事前の健康管理に注意し、体調を整えておく。
イ 家族とお互いの行動を打ち合わせておく。
ウ 援助に関する自分の役割をよく理解しておく。
エ 自分の身は自分で守ることが最低限度のルール
(常用薬、気候対策、携行物資や機材、食糧等を含め事前にチームで決めておく)

(2) 対象地域の様々な情報を知っておく

ア 被災地の住民は現実的な援助を必要としている。公的機関、交通、その他もろもろの知識が必要である。
イ 被災地ですでに活動している支援者から、事前に説明や情報を得るとともに、相談しながら進めることがだいじである。
ウ チームで行動し、現地の窓口を活用する。被災者にみられる精神的な動揺の多くは、災害時に誰にでも起こりうる正常な反応であることを被災者に伝えることが大切である。

(3) 支援者は二次受傷者となり得る

被災地の現場では、環境が混乱しており、ストレスの高い状態が続き、支援者も精神的影響を被り、心身の変調をきたしがちである。被災者を支援することで自ら傷つくこともある(二次受傷)。

(4) 災害によるストレスについて正しい知識を持つことが必要である

被災者にみられる精神的な動揺の多くは、災害時に誰にでも起こりうる正常な反応であることを被災者に伝えることが大切である。

(5) 出向いて行って、働きかけることが大切

救護所や相談所への来所者に対応するだけでなく、避難所など被災者のいる所に出向いて、気軽に相談に応じることが大切である。その際、現地の人とペアを組んで出向くことが望ましい。

(6) 専門用語は使用しない

  • 「カウンセリング」「メンタルヘルス」「トラウマ」[PTSD」「精神」や「こころ」等の言葉を安易に使用しない。
  • 「お話しする」「お手伝いする」というように日常の言葉を使う。

(7) 必要に応じて、専門家への橋渡しをする

  • 無理なことまで引き受けて、できない約束をしたりすることは避ける。
  • 専門家に橋渡しをするのも支援者の重要な役割である。

(8) 被災者が自己決定できるよう被災者の考えを尊重し支える

  • 支援者の援助の押し付けではなく、被災者の自律性の回復を重視した支援を行う。
  • 困難度が高かったり混乱のひどい被災者においても、被災者の考えをなるべく尊重し、本人自身が適切な決定を行えるように支援する。

(9) 二次被害の防止

  • デマ、うわさに注意して、正確な情報の伝達に努める。
  • 本人の意に反した取材活動、事情調査等は心理的な負担となる。

4 話を聴くことの大切さと注意点

  • ストレス反応を軽減させる方法として、もっともよい方法は被災体験を聴くことである。
  • 被災体験を聴くときには、相手の話のペースに任せてひたすら聴くことが大切である。

話を聞く際の注意点

(1) 最初に災害状況や体調について声をかける。ゆっくりと自然な感じで話す。
(2) 途中で話を妨げないで、かつ、共感する姿勢で聴く。
(3) 相手の気持ちを聴き、感情をあるがままに受け止める。
(4) 無理に聴き出すことは避ける。
(5) 安易な励ましや助言は禁物
(6) 災害時を無理に想い起させるような聴き方を避ける。
(7) ニーズを読みとる。

5 支援者のセルフケア

(1) 支援者も被災者と同じ状況に置かれている

被災地の現場では、環境が混乱しておりストレスの高い状態が続き、支援者も精神的な影響を被り心身に変調をきたす。

(2) 支援者のセルフケアの方法

支援者は、自分自身のストレス反応を予防し効果的な援助をするために、セルフケアの方法を身につける必要がある。
ア ストレスの兆候が現れたら、恥じることなく、自分の気持ちやストレスに感じていることを素直に認める。
イ 現場でどんな活動をしたか事実関係を簡単に報告してから任務を解く。
ウ 自分の行動をポジティブに評価する。
エ 自分の体験・目撃した災害状況や、それに対する自分の気持ちを仲間と話し合ってみる。
オ 自分だけで何とかしようと気負わず、自分の限界を知り、仲間と協力し合い、お互いに声をかけながら活動することが大切である。
カ 時々休憩をとり、体を伸ばしたり、深呼吸してみる。
キ 家族や友人と過ごせる時間を大切にする。
ク 休めるときは十分に休む。

6 支援者がしてはいけないこと

支援者は、あくまで相手の立場に立って対応するのが基本であり、以下のようなことがないように注意する必要がある。
(1) 援助の相手に対して、こう考えるべきだと指図したり、相手の感情を批判したり非難したりする。
(2) 意欲のなさを非難したり、場違いで過度の励ましを行う。
(3) 話を聴かず、支援者の用件を優先させる。
(4) 自尊心を無視して、権威的な態度や恩着せがましい態度をとる。
(5) 感情に巻き込まれ、過度の哀れみや同情によって行動する。
(6) 責任を肩代わりして、自分が何でもやってあげようとする。

7 参考となるリーフレット 

『災害時の「こころのケア」の手引き』
『災害時のこころのケア』
ダウンロードできます

お問い合わせ

このページの担当は 中部総合精神保健福祉センター 広報援助課 広報研修担当 です。

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