防災のことを考えてみませんか


(高次脳機能障害のある方のための災害時初動行動マニュアル)


目次

はじめに

1 大規模な災害が起こると高次脳機能障害のある方はどんなことに困るのでしょうか

2 災害に備える 準備編
(1) 非常持ち出し品を用意しましょう。
 a 日頃から携帯しておくものの例
 b 避難生活で役立つものの例 
 c その他、一般的な防災用品等の例
 d 家で過ごす場合の準備
(2) 周囲の人に支援を求めるヘルプカード等を持ちましょう。
【ヘルプカードに記載しておくと良い情報】
(3) 出入り口への経路や家の中の安全を見直しましょう。
(4) 避難先と避難経路を確認しましょう。
(5)ご家族との連絡方法や集合場所を確認しましょう。
(6)地域とのつながりをもちましょう。

3 災害(地震)が起きたら
(1) 家のなかでは
(2) 外出先では

4 避難所での生活について

5 支援をしてくださる方へお願いしたいこと


はじめに



このマニュアルは、高次脳機能障害のある方とご家族が、大規模な災害発生時に適切に行動し、必要な支援を得られるように、大切なことをまとめたものです。
災害に備えてどんな準備をし、実際の災害時にどのように行動したらよいのか、このマニュアルを活用し、できるところから準備を始めてみてください。
(高次脳機能障害とは、脳卒中等の病気や事故等による脳損傷の影響により、記憶・注意・思考・行為・言語などの認知機能の一部に障害が生じた状態を言います。)


1 大規模な災害が起こると高次脳機能障害のある方はどんなことに困るのでしょうか



■ 高次脳機能障害は、外見からは分かりにくいので、避難する時や避難所生活で、周囲の人の理解や支援を得にくいことがあります。
■ ふだんとは異なる状況の中で、必要な情報をまとめて正しく判断し、行動に移すことが難しくなります。
■ 混雑しているところでは、人や物にぶつかったり、避難所への目印なども見落としてしまうこともあります。
■ 自分の知りたいことやして欲しいことを周囲の人に適切に伝えられないことがあります。
■ 避難所での放送内容が十分に聞き取れない、聞き取れても記憶できないために食事の配給などの援助が得られないことがあります。
■避難所では、大勢の人がいるので、雑音や周囲の様子が気になり、落ち着かないことが あります。いつもよりも、さらに疲れやすくなります。

イラストの説明
イラスト1 駅のホームで…
電車を待っている場面で、地震発生のために電車が運休になったことの構内放送が入るが、内容が理解できずに困って動けない様子。

イラスト2:どこに集まるの?
配給場所の案内の張り紙を見落として、迷っている様子。


2 災害に備える 準備編


災害発生から当面は、日頃受けている支援やサービスが限定されることも想定されます。
ご自身の状況に合わせ、事前の準備を十分に行うことが大切です。
ご家族や支援者、職場の方と災害時の具体的な行動や避難方法を話し合いましょう。
必要な支援について地域の人に知ってもらうことも大切です。

(1) 非常持ち出し品を用意しましょう。
「非常持ち出し品チェックリスト」
ご家族や支援者と相談しながら、一人ひとりの障害状況や生活状況に応じて、必要なものを準備してください。
リュックサック等に入れ、持ち出しやすい場所に置いておきましょう。

a 日頃から携帯しておくものの例
障害者手帳・健康保険証
お薬手帳または現在の処方箋・薬の予備3日分程度:
(健康保険証や処方箋のコピーを障害者手帳等に入れておきましょう)
メモリーノートやICレコーダー等の記憶の補助ツール
家族の写真:
(家族とはぐれた時の確認用で、裏に家族の名前と携帯やメールの連絡先を書いておきます)
ヘルプカード等(周囲の人に支援を求めるツール)
携帯電話・緊急用のホイッスル

b 避難生活で役立つ物の例
・懐中電灯:
(ヘッドライトタイプだと片麻痺がある方でも移動や片手作業がしやすくなります。)
・耳栓やイヤーマフ(音を遮断するもの):
(周囲の音が気になって落ち着かなくなったり、ゆっくり休めない時に使います。)
・アイマスク:
(混雑した状況の中で、周囲の動きや光が気になり落ち着かない時や休めない時に使用します。)
・ 筆記用具とノート等
・携帯ラジオ・乾電池
・非常食と飲料水(最低でも3日分)
・ウェットティッシュ:
(体の清潔を保つのに便利です。)
・携帯トイレや失禁パッドやパンツ:
(頻尿の方やトイレ設備が使用しにくい際はあると便利です。)
・余暇時間を過ごすグッズ:
(パズルの本など、通所等ができなくなり余暇時間を過ごすのが難しい場合にあると役立ちます。)

c その他、一般的な防災用品等の例
・衣類や下着・救急用具
・防災頭巾やヘルメット・軍手
・雨具・タオル・トイレットペーパー
・ビニール袋・ラップ・マスク・生理用品・小銭
・その他(ビニールシート、カイロ、ナイフ等)

d 家で過ごす場合の準備
避難所で、障害のある方に配慮した支援体制が整うには時間を要することも考えられます。
また、障害状況によっては、配給や買い物で長時間並ぶことが難しくなることも想定して、自宅でも生活ができるように3日分以上の非常食や飲料水や簡易携帯トイレや生活便利品などの準備をしておきましょう。

(2) 周囲の人に支援を求めるヘルプカード等を持ちましょう。
 (区市町村が作成したヘルプカードや防災カード等があれば活用しましょう。)
■ 記憶障害があり、持ち忘れる場合は、障害者手帳等と一緒に持ち歩くなどの工夫をします。
■ 実際にヘルプカード等を使って周囲の人に支援を求める練習をしておきましょう。

イラスト説明:
東京都が推奨する標準様式のヘルプカードのイラストです。
ヘルプカードという文字の上に、「あなたの支援が必要です」と書かれています。
その右横には赤い四角の中に十字マークとハートマークが白抜きで縦に並んで描かれています。

【ヘルプカードや防災カード等に書いておくと良い情報】

■ 基本情報の例
名前、生年月日、住所、電話番号
緊急連絡先、災害時の集合場所など

■ 障害の説明、周囲の人にお願いしたい支援の内容を書いておきます。

■ 合併症や既往症について
糖尿病、高血圧等の既往症
てんかん、身体障害等の合併症について

 服薬内容、服薬介助の有無や方法
カロリーや塩分など食事制限
てんかん発作の頻度や対応方法
身体の麻痺や感覚障害の状態と配慮点
トイレや移動の介助方法など

■ 主治医病院や調剤薬局

■ 言葉で伝えることが難しい方は、いざという時に必要な「支援を求めるメッセージ」をあらかじめ記入し、使う練習を行います。

支援を求めるメッセージの例 
「避難所まで連れていってください。」
「今の放送は何と言っていますか?紙に書いて教えてください。」
「わたしは話すことが難しいので、家族に私が無事なことと私のいる場所を伝えてください。」
私の名前:東京太郎 姉の電話番号00の000の0000 

■ ご家族以外で、ご自身や障害のことをご存知の方の連絡先

・ 相談機関
・通所先
・ヘルパー
・所属している家族会、サークルなど

(3) 出入り口への経路や家の中の安全を見直しましょう。
■ 出入り口への経路は整理整頓し、大きな家具を置かない。
■ 家具や大型家具を転倒防止器具で固定する。
■ ガラスに飛散防止フィルムを張る。
■ 戸棚の扉にストッパーを付ける。
■ 重い物を高い場所に置かないなど。

(4) 避難先と避難経路を確認しましょう。
■ ご家族や支援者と自宅の近隣や通勤・通所経路にある避難場所・避難所を「防災マップ」などで確認し、避難地図を作成します。
狭い道は倒壊物などで通れないことがあるので、広い道路を選びましょう。
実際に、避難場所・避難所に行ってみましょう。

「わたしの避難先と避難経路」
ご家族や支援者と相談して、避難所(学校、公民館などの建物)避難場所(大規模公園、緑地など)の名称と住所、簡単な地図などを記載しておきましょう。

@自宅からの避難先 
A通所先や職場からの帰宅途中での避難先
  B家族との連絡方法(災害伝言板などの使い方など)を記載しておきましょう。

【参考】
二次避難所(福祉避難所):
自宅や避難所での生活が困難で特別な配慮を必要とする要介護高齢者や障害者等を一時的に受け入れ、保護するための施設で、社会福祉施設等が指定されています。
事前に見学して、環境を確認しておくと良いでしょう。
場所はお住まいの区市町村にお問い合わせください。

災害時帰宅支援ステーション:
帰宅困難者の徒歩帰宅を支援するために、水道水、トイレ、テレビ、及びラジオからの災害情報の提供を行うところです。
都立学校、コンビニエンスストアやガソリンスタンド、ファミリーレストラン等

イラスト説明:
災害時帰宅支援ステーションステッカーのイラストです。
黄色の四角いステッカーに、青のハート型の顔が歩いているイラストが描かれています。
「災害時には徒歩帰宅する皆様を支援します」と書かれています。
「災害時帰宅支援ステーション」のロゴが入っています。

(5) ご家族との連絡方法や集合場所を確認しましょう。
■ 災害時の安否確認手段を決めておきます。
■ 災害伝言サービス体験日を活用し、使い方を練習しておきましょう。
(毎月1日・15日が無料体験日となっています。)
災害用伝言ダイヤル(171)災害用伝言板(web171)【NTT東日本】 災害用伝言板【携帯電話各社】

(6) 地域とのつながりをもちましょう。
■ 地域の活動や防災訓練に参加しましょう。
自分の状態について近隣の方に理解していただき、いざという時に支援をお願いできる関係を築いておきます。
防災訓練で、ヘルプカード等を使う練習もしておきましょう。
■ 当事者・家族会を活用しましょう。
独自のネットワークで情報や支援が得られる場合もあります。
■ 災害時要援護者名簿に登録しましょう。
対象者や災害時に受けられる支援については、お住まいの区市町村にお問い合わせください。


3 災害(地震)が起きたら



(1) 家の中では
@自分の体を守りましょう。
大きな家具や家電製品、ガラスからはなれて、テーブルや机の下にもぐり、揺れがおさまるまで待ちましょう。
(身体の麻痺などにより、もぐるのが難しい場合はヘルメットや防災頭巾なければクッションや雑誌などで頭を保護しましょう。)
A揺れがおさまったら、落ちついて火を消します。
Bスリッパや靴を履いて足を保護し、戸や窓を開けて出口を確保します。
C家族の安全を確認し非常持ち出し品を手元に置きます。
あわてて外に出ず周囲の状況を確認して落ち着いて行動します。
非常持ち出し品の持ち出しが難しい場合は、無理をして持ち出さないでください。
D身動きができない時には、緊急用ホイッスルやブザーを鳴らす、物を叩くなど音を出して周囲にしらせましょう。
E避難場所・避難所に移動する時は、周囲の人に支援を求めましょう。
周囲で火災が発生した際は、タオルで口と鼻をおおって、煙を吸い込まないように姿勢を低くしながら、近くの避難場所に逃げましょう。

(2) 外出先では
■ 通所先や職場では、通所先の職員や職場の方の指示に従いましょう。
■ 街の中では、頭をかばん等でほごしながら、自動販売機、建物の壁ぎわや塀ぎわから離れましょう。
■ ヘルプカード等を活用して、周囲の人に声をかけ安全な場所へ誘導してもらいましょう。
■ 電車やバスが運休しても、あわてて徒歩で帰宅せず「一時滞在施設」等の安全な場所に誘導をしてもらい、ご家族や支援者に連絡を取りましょう。
「一時滞在施設」は、災害発生時に行き場のない帰宅困難者を一時的に受け入れる施設です。


4 避難所での生活について



■ 避難所に着いたら、受付を行います。
(安否確認にもなります。)
受付時に障害状況について伝えましょう。
失語症などで名前や住所を記載するのが難しい場合や、障害状況を伝えるのが難しい場合は、障害者手帳やヘルプカード等を提示しましょう。

■ てんかん発作のある方は、頻度や対応の仕方について必ずスタッフに伝えます。
服薬中の薬は、飲み忘れないよう注意しましょう。
かかりつけ医の連絡先やお薬手帳等を必ず携帯します。

■ 自分の場所が覚えられなかったり、迷ってしまう場合はスタッフに相談し、できれば位置関係が分かりやすい角や壁際に場所を確保してもらいましょう。
テープや張り紙など、分かりやすい表示や、施設内の簡易な地図の作成をお願いしましょう。
目立つ色や柄のシートを非常持ち出し品に用意しておくのも良いでしょう。

■ いつもと違う環境に対応するために、神経疲労を起こしやすくなっています。
居場所が確保できたら、まずは十分に休息を取りましょう。

■ ご家族や支援者とあらかじめ決めておいた避難所と異なる場合は、状況が落ち着いたら予定していた避難所に「名前」、「現在の避難場所」、「自分の居場所を伝えたい家族・支援者の名前」を連絡しましょう。
うまく伝わらないときはスタッフに相談しましょう。

■ 周囲の音などが気になり、落ち着かない場合は、耳栓やアイマスクを利用したり、静かな場所に移動できるかスタッフに相談してみましょう。

■ 放送や掲示板の内容が分からないときは、ヘルプカード等を活用して、周囲の人に内容をメモに書いてもらい、説明をお願いしましょう。

■ 体調が悪いときには、がまんせずにスタッフに相談しましょう。

■ 水分を十分にとり、できる範囲で体を動かしましょう。

【防災・災害に関する情報の提供について】
災害時には被害状況等の情報も提供されます。(内容は障害者向けに特化したものではありません。)
東京都防災ホームページアドレス:
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/
携帯電話向けのアドレス:
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/mobile/index.html 


5 支援をしてくださる方へお願いしたいこと



症状の表れ方や必要な支援は人により異なります。
ヘルプカードや防災カード等を参考に、個別に支援内容を確認して対応をお願いします。

(1)情報提供の支援(失語症・記憶障害・注意障害・遂行機能障害など)
文字や表示、話の意味を十分に理解するのが難しいことがあります。
必要な情報を見落としたり忘れてしまうことがあります。
言いたいことをうまくまとめて話せなかったり、言葉が出にくい人もいます。

■ ポイントをしぼって、「ゆっくり」、「はっきり」、「具体的に」話をしてください。
■ 絵や図、写真などを添えて話をすると理解しやすくなります。
■ 大切な説明や予定は、メモに書いて渡してください。(記入日時と記入者名を記載)
■ 食料品の配給などの大事な予定や放送があるときは、声かけや説明をお願いします。
■ 何度も同じことを聞く時は、いつも見える場所にメモを貼ったり、繰り返しの説明をお願いします。
■ 言葉が出ずに困っている時は、本人の状況を推測して選択肢をあげたり、絵や図を活用するなどして、表現のサポートをお願いします。
■ 手続きや書類の記入は記入例を提示したり、一つずつ案内をお願いします。

(2) 感情コントロールがうまくできない場合
■ イライラしている時は、静かな場所へ誘導し、落ち着くまで待って話を聞いてください。
■ 自分から行動を起こしにくいことがあります。
大切な予定があるときは、声かけをお願いします。

(3) 移動等の支援(地誌的障害・注意障害・記憶障害・半側空間無視など)
■ 道や建物の中で迷うことがあります。目的地までの誘導をお願いします。
■ 混雑している場所では、人や物にぶつかることがあるので、誘導をお願いします。

(以上の項目を参考に、ヘルプカード等に記載して、周囲の人に必要とする支援を伝えましょう。)

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