本文へ移動

「乳がん検診
オンラインセミナー」
開催レポート

コラム2023.3.16

このページをシェアする!

日本人女性の9人に1人がなるという乳がん。乳がんは、早期発見・早期治療による10年後の相対生存率が90%以上のがんです。東京都では、乳がんと乳がん検診についてより多くの方に正しく知っていただくために、令和4年10月から約2か月間にわたり、「乳がん検診オンラインセミナー」を開催しました。期間中に視聴できなかった方のために、その内容をご紹介します。乳がんの知識を得てご自身の健康を守りましょう。

[講師] 聖路加国際病院 放射線科乳房画像診断室長 角田博子先生

①乳がんの基礎

乳房の構造

乳房の中は、木の枝に多くの葉っぱがついているようなイメージの構造になっています。
乳がんは、乳腺(小葉と乳管)というところにできるがんです。

乳房の構造の説明図

乳がんの種類はいろいろなタイプがある

乳がんは、大きくは「非浸潤がん」と「浸潤がん」に分けられます。非浸潤がんは小葉や乳管の膜内にできる早期の乳がん、浸潤がんは膜を破って周囲に浸潤する乳がんです。この他、サブタイプといわれるものもあり、乳がんと一口にいってもいろいろな種類があります。

日本人女性にとって乳がんは罹患する人数が最も多いがん(9人に1人)

2019年度の統計では、浸潤がんに罹患した女性は約9万7千人、非浸潤がんを含めると10万人を超える女性が乳がんになっています。日本人女性にとって、乳がんは罹患する人の数が最も多いがんで、一生涯のうち9人に1人がなる計算になります。

全国がん登録に基づくがん罹患数(全国・2019年)

  • 出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)

日本人女性のがんによる死亡原因の第4位

乳がんは、がんを原因とする死亡数においても、肺がん、膵臓がん、結腸がんに次いで第4位という上位に位置しています。

全国がん登録に基づくがん死亡数(全国・2020年)

  • 出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)

乳がんのリスク

乳がんのリスクで確実なものには、家族歴、出産経験がないこと・授乳歴がないこと、閉経後肥満、良性乳腺疾患の既往、プロゲステロン併用長期女性ホルモン補充療法、BRCA1,2という遺伝子変異をお持ちの方、閉経後のアルコール摂取などが挙げられます。自分でコントロールすることが難しいものが多く、家族歴(血縁者に乳がんになった人がいる)もその一つです。

乳がんのリスクについて詳しく知りたい方はこちらへ
日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版「原因と予防について」

②検診って何?検診には2種類あります

検診と診療の違い

「検診」は何も症状のない人が受診するもの。気になる症状がある場合は、病院を受診して「診療」を受けてください。

対策型検診(住民検診)/任意型検診(人間ドック)

検診には大きく2種類あります。対策型検診は、集団全体の死亡率を下げることを目的としています。公共サービスとして行われ、地域によってその費用の全額あるいは一部が地方自治体(お住まいの区市町村)から補助されます。一方、任意型検診は、人間ドックなど個人の死亡のリスクを減らす目的で行われています。任意のため費用は通常は自己負担になります。どちらの検診が優れているというわけではなく、それぞれ全く異なる考え方で実施されているものです。

がん検診の種類

がん検診の種類の図

対策型検診の方法として、40歳以上の方に、2年に1回のマンモグラフィ検査

対策型検診では、乳がんの死亡率減少効果が証明されているマンモグラフィ検査を行います。乳がんの検出に用いられる検査は、マンモグラフィ以外にも超音波検査やMRIなどがあります。「自己負担でもより詳しい検査を受けたい」という場合は、これらの手法を提供する任意型検診を受けるのも選択肢の一つです。

③乳がん検診について知っておきたいこと 検診のメリット・デメリット

検診には、必ず良い面(メリット)と悪い面(デメリット)があります。検診を提供する場合、総合的にメリットがデメリットを上回ることが重要です。
検診のメリットとデメリットをよく理解して受診してください。

乳がん検診のメリット(利益)

最大のメリットは乳がんによる死亡を減らすことです。今のところ、その証拠が認められているのはマンモグラフィ検査のみです。乳がん検診によって早期の乳がんを検出できれば、小さい手術で済み、その結果、治療にかかる費用も少なくて済みます。もちろん、乳がんは検出されず安心できたというのも大きなメリットの一つといえます。

乳がん検診のデメリット(不利益)

・被ばく
マンモグラフィによる被ばく量は0.3mSv(Sv:シーベルト)以下と極めて微量です。ただし、放射線に対する感度は年齢によってかなり異なり、30歳未満の女性では利益と不利益が逆転します。

・偽陰性
本当は乳がんなのに、精密検査不要と判定されること。検査機器の限界によって、あるいは人為的な見落としによっても起きます。そこで、NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構が開催する講習会を受け、最終試験に合格した技師・医師のみが検診に携われるようにするなどして見落としを回避する努力を続けています。

・偽陽性
乳がんではないのに、乳がんの疑いがあり、要精密検査とされること。実際に乳がんであるケースは、日本では要精密検査受診者100人中5人くらいといわれます。

・過剰診断
もし検診を行わなければ、生涯臨床的に診断されなかっただろうがん(進行速度が遅いため、死に直結しないがん)を診断すること。
国際的な研究では、検診で発見される乳がんのうち、こうした過剰診断に該当するがんが20〜30%あると考えられています。

④マンモグラフィ検査について

乳がん検診に使われるマンモグラフィとは、圧迫板と呼ばれる透明な板で乳房を押し広げて撮影する乳房エックス線撮影のことです。

乳房を圧迫する理由

乳房を圧迫するのは、乳房を押し広げて、病変を見つけやすくするためです。理由が分かれば、検査の際の痛みを我慢していただけるかもしれません。

乳房を圧迫した図

⑤高濃度乳房って何?高濃度乳房と言われたらどうしたらいいのでしょう?

高濃度乳房について

乳房は、乳腺の量や脂肪組織の混在の程度により、「脂肪性」、「乳腺散在」、「不均一高濃度」、「極めて高濃度」の4種に分けられます。このうち、不均一高濃度と極めて高濃度の2つを高濃度乳房と呼びます。福井県の集団検診のデータ(平成26年)によると、40代女性の6割近くが高濃度乳房で、年齢が上がるにつれてその割合は減っています。

高濃度乳房には2つの問題があります。一つは、マンモグラフィではしこりが見えにくく、偽陰性になる可能性が高いこと。もう一つは、乳がんのリスクが高いこと。脂肪性の乳房と比較して2倍程度とみられています。といっても過度に心配する必要はありません。もし1000人が乳がん検診を受診したとして997〜998人が異常なしと言われたとすれば、高濃度乳房の場合1000人中995〜996人が異常なしとなる計算になります。

高濃度乳房の様子

  • 画像提供:NPO法人乳がん画像診断ネットワーク

高濃度乳房について詳しく知りたい方はこちらへ
乳がん検診の適切な情報提供に関する研究(厚生労働省研究班)「高濃度乳房についてのQ&A」

自分の乳房の変化を気にする習慣と2年に1回の乳がん検診

高濃度乳房は病気ではなく、特別な対応をとる必要もありません。大切なことは、自身の乳房の変化に気を配ること、そして2年に1度の検診を定期的に受診することに尽きます。

⑥精密検査は何をするの?〜検診で要精密検査と言われたら〜

検診で要精密検査と言われたら、乳腺診療を専門とする医療機関を必ず受診してください。「怖い」、「時間がない」などの理由で医療機関を受診しないのは、本当にもったいないことです。がんでなければ安心できます。もしがんであれば早期のうちに発見できるチャンスです。

精密検査の内容

・マンモグラフィ
通常の検診では行わない拡大撮影やスポット撮影・トモシンセシス(3D断層撮影)など。

・超音波検査
マンモグラフィでは検出しにくい病変を検出できる可能性があります。

・MRI検査
多くは、乳がんの手術前などにその広がりを調べるために用います。マンモグラフィや超音波で検出できなかった病変を検出することもあります。また3Dで撮影するので、より客観的な画像をもとに判定することができます。

・細胞診・組織診
画像だけでは良性か悪性か判定しにくい場合などは、細胞や組織の検査を行います。

⑦ブレスト・アウェアネスを実践しよう

ブレスト・アウェアネスとは乳房を意識する生活習慣のことです。ポイントは以下の4つ。

  • 1. 自分の乳房の状態を知る。
  • 2. いつもと違うところはないか気をつける。
  • 3. 何か気になるところがあった場合には、医師に相談する。
  • 4. 40歳になったら、2年に1度乳がん検診を受ける。

ブレスト・アウェアネスは、“変わりないかな?チェック!”と言い換えることもできます。例えば、「しこりが触れるような気がする。前にはなかった」など、いつもと違う変化に気づいたときは、迷わず医師に相談してください。

ブレスト・アウェアネスについて詳しく知りたい方はこちらへ
乳がん検診の適切な情報提供に関する研究(厚生労働省研究班)
「ブレスト・アウェアネス(乳房を意識する生活習慣)のすすめ」

検診対象より若い世代から開始できる

ブレスト・アウェアネスは、検診対象より若い世代から始められる生活習慣です。ブレスト・アウェアネスを実践し、何か変わったと感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。

事前アンケートへの回答

Question1 乳がんにならないための予防法はありますか?

乳がんのリスクについてお話ししたとおり、家族歴や出産・授乳歴がないことなど、自分ではコントロールできないことがほとんどです。だからこそ、がんを早期に発見し早期に治療するため、40歳になったら「2年に1度の乳がん検診」が不可欠なのです。

Question2 何歳まで検診を受けるべきですか?

厚生労働省が令和3年10月1日に通達した指針では、乳がん検診を特に推奨する対象は40歳以上69歳以下の者とするとしています。
検診受診の推奨年齢の上限を決めることは、対象年齢以上の女性の利益を奪うのではなく、不利益から守るという意味があります。(指針では、検診対象者のうち、受診を特に推奨する者に該当しない者であっても、受診の機会を提供するよう留意することとしています。)
ここでもブレスト・アウェアネスの実践はとても重要で、もし何か気になる変化を感じた場合には、年齢には関係なく病院を受診することが大切です。

Question3 コロナ禍でも乳がん検診は受けた方がいいでしょうか?

医療機関では、厚生労働省の院内感染防止のガイドライン等に基づき、感染対策に取り組んでいます。コロナ禍でもきちんとした感染対策のもと検診を受けてください。乳がん検診を行っている施設では、この他、日本乳癌検診学会が作成した「乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症への対応への手引」に基づいてしっかりと感染対策をしています。安心して検診を受けましょう。

他のテーマも読む!

Part1 まだ早いって思ってない? 子宮頸がんのこと
Part2 自分でチェック、始めよう 乳がんのこと
Part3 忘れてはいけない、女性に関係のあるがん 大腸がんのこと
Part4 自分の適量、知ってますか? お酒のこと
Part5 ついおろそかにしちゃう!でも! 食生活のこと
Part6 思春期から更年期まで。こころにも、ケアが大切です。 こころの健康のこと
Part7 自分にだけ、じゃない喫煙の健康被害。知っておこう。 喫煙のこと