摂食障害 〜神経性やせ症・神経性過食症を中心に〜 摂食障害とは 摂食障害は「食べる」という行動に症状があらわれる、こころの病気です。全国の摂食障害の外来患者は約21万人、入院患者は約1万人と推計されています※1。若年者に多く、女性に圧倒的に多くみられます。摂食障害患者の1〜2割が慢性化するといわれています。近年では患者の高齢化も指摘されています※2。 ※1 出典:厚生労働科学研究費補助金『精神科医療提供体制の機能強化を推進する政策研究』研究班 作成資料(平成 29年度 NDB集計より)https://www.ncnp.go.jp/nimh/seisaku/data/ (国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所) ※2 中山書店「講座 精神疾患の臨床 4 身体的苦痛症群 解離症群 心身症食行動症または摂食症群」290ページより引用(2021年) 摂食障害の種類と症状 神経性やせ症(神経性無食欲症) 神経性やせ症は、10代での発症が多く、体重の低下(BMI※3 18.5未満)が特徴的です。やせ願望があり、太ることを極度に恐れ(肥満恐怖)、自分が実際の体型より太っていると感じます(ボディイメージの障害)。極力食事を摂ろうとしない「摂食制限型」と、食べた後に排出行動がみられる「過食・排出型」があります。※3 BMI(Body Mass Index):体重(kg)÷身長(m)の2乗 神経性過食症(神経性大食症) 神経性過食症は、10代後半〜 20代前半での発症が多く、やせ願望や肥満恐怖がありますが、体重は標準の範囲のことも多いです。過剰な量の食事を摂る「むちゃ食い」(過食)と、嘔吐や下剤の濫用(らんよう) など体重増加を防ぐための代償行動を繰り返す点が特徴的です。 神経性やせ症の人が拒食の反動で過食や嘔吐等をするようになり、のちに神経性過食症になる場合もあります。 過食性障害 過食を繰り返しますが、不適切な代償行動はみられないタイプで、肥満となっている場合も少なくありません。 摂食障害の特徴 心理面の特徴 一般に、摂食障害の背景には対人関係上の悩みや自己評価や自尊心の低さがあるとされ、それを埋め合わせようとして体重や体型をコントロールすることに過度にこだわり、安心感、満足感、達成感を得ようとするという特徴がみられます。 ストレス発散のために過食している場合もありますが、過食や嘔吐等には苦痛を感じ、罪悪感を伴います。 嘔吐等の代償行動によって過食後の罪悪感、体重増加の恐怖を解消しようとしているうちに次第に習慣化し、自分ではコントロールできなくなって過食や嘔吐等を繰り返してしまいます。 生活上の問題 食事へのこだわりや家族への食事の強要、食材や下剤等を大量に購入して経済的にひっ迫する、過食や嘔吐等の代償行動のために学校や仕事 を休むなど、家族関係をはじめ、日常生活、社会生活に重大な支障をき たす場合があります。 身体症状 低栄養が進むと、肝機能障害、骨粗(こつ  そ ) 鬆症、(しょうしょう) 脳萎縮などがみられ、女性の場合は、女性ホルモンなどの異常から無月経もしばしばみられます。嘔吐や下剤の濫(らん) 用(よう) によって低カリウム血症に伴う不整脈などが生じる場合もあり、生命に関わります。 併存症 気分(感情)障害、不安障害、強迫性障害、発達障害、パーソナリティ障害、アルコールや薬物等への依存など様々な精神疾患が併存することがあります。万引きといった社会的に問題のある行動や自傷行為が出現することもあります。 摂食障害の治療 神経性やせ症の治療では、栄養補給と体重増加が重要な目標となります。低栄養が進むと生命にも関わるため、重症の場合は、入院治療が行われます。一般的に低栄養が進むほど治療に拒否的になる傾向があるため、発症早期に治療を開始し、極度の低栄養や慢性化を防ぐことが大切です。栄養状態が安定したら、ボディイメージを適正化するための認知行動療法※4などの心理療法を行うことがあります。 ※4 認知行動療法とは、主に物事の捉え方や考え方(認知)を変えていくことで気持ちを楽にし、行動を修正していく心理療法のこと。 神経性過食症では、認知行動療法の有効性が知られています。「過食を止めること」ではなく「コントロール感を持つこと」を目標とし、病気への理解(心理教育)、症状のモニタリング、生活リズムの見直しなどを図ります。 精神症状の併存や身体疾患の合併がある場合は、薬物療法を行うことがあります。SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)などの抗うつ薬が用いられることもあります。 本人は自分が病気ではないと「否認」することが多く、治療を中断するリスクが高いため、治療を進める上では本人だけでなく、家族も医療機関と協力しあうことが不可欠です。家族も摂食障害の症状に振り回されて疲弊しがちなので、原因探しをせずに継続的に支援を受けることが重要です。 摂食障害の早期発見・早期治療のために 摂食障害の早期発見・早期治療のために やせ願望や肥満恐怖が強くなく、代償行動の程度が軽かったり、外見上は問題がなかったりする場合には、周囲も気づかず、未治療のまま経過することも稀ではありません。摂食障害と診断されるほどでなくても、ダイエット・食事制限をして慢性的にやせている方もいます。低栄養が続くと身体だけでなく、抑うつやイライラなど、こころにも悪影響が生じます。不妊や早産、低出生体重児などのリスクも高まるため、注意が必要です。 摂食障害は早期発見・早期治療が重要です。神経性やせ症、神経性過食症の人によくみられる特徴を以下に挙げます。気になる方は医療機関や相談機関で相談してみてください。 ・・・チェックリスト※5 □ 体重・体型への関心が高い。 □ 太るのが怖い。 □ 食事の量を減らすことがある。 □ 自分でコントロールできずに、一度にたくさん食べてしまうことがある。 □ たくさん食べた後に、食べたものを吐いたり、食事を抜いたり、たくさん運動したりする。 □ やせている。 □ 周りからはやせているといわれるが自分ではそうは思わない。 □ カロリーや体重のことで頭がいっぱいになる。 □ 生理がこない、不順になった。 □ 手足が冷えやすい。 ※5 摂食障害全国支援センター「摂食障害情報ポータルサイト(一般)」より引用(2022年7月閲覧)URL:https://www.edportal.jp/about/about_check.html 〜お住まいの地域を管轄する保健所や保健センター、精神保健福祉センター等で、ご本人やご家族、あるいは関係機関からのご相談に対応しています〜 ◎東京都立中部総合精神保健福祉センター 〒156-0057 世田谷区上北沢2ー1ー7  相談電話:03-3302-7711(平日9時〜17時) 担当地域:港区、新宿区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、練馬区 ◎東京都立精神保健福祉センター 〒110-0004 台東区下谷1ー1ー3 相談電話:03-3844-2212(平日9時〜17時) 担当地域:千代田区、中央区、文京区、台東区、墨田区、江東区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区、島しょ地域 ◎東京都立多摩総合精神保健福祉センター 〒206-0036 多摩市中沢2ー1ー3 相談電話:042-371-5560(平日9時〜17時) 担当地域:多摩地域全域 東京都夜間こころの電話相談 電話03-5155-5028 毎日17時〜22時(受付は21時30分まで) 令和5年1月発行 登録番号(4)4