睡眠障害〜不眠症を中心として〜 東京都立(総合)精神保健福祉センター 睡眠の役割 睡眠には「心身の回復」「記憶の定着」「免疫機能の強化」等、重要な役割があります。睡眠が不足すると、疲労が解消されず、仕事中に眠くなったり、作業効率が悪くなったりします。睡眠は、「量」だけでなく「質」も重要です。生活に支障をきたすような病的な睡眠状態を総じて「睡眠障害」といいます。 睡眠障害は、心身の健康に影響を及ぼすことがあります。睡眠の質の低下は事故やさまざまな病気の原因になります。 睡眠不足が続くと、高血圧、肥満、糖尿病等の生活習慣病や、うつ病、認知症の発症リスクが高くなります。また、がんや細菌、ウイルスの感染を防御する免疫機能の働きが低下したりします。 睡眠のメカニズム 私たちの多くは毎日ほぼ同じ時刻に眠り、同じ時刻に目が覚めます。 私たちの体の中には概ね1日を単位とする体内時計があり、睡眠と覚醒の周期によって動いています。睡眠と覚醒の規則正しいリズムは、日中身体と脳を活動させる時間と疲れて眠る時間がバランスよくあって、身体の恒常性が維持されるようになっています。 睡眠には、夢を見る浅い眠りの「レム睡眠」と大脳皮質を休める深い眠りの「ノンレム睡眠」があり、これらは約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に身体の準備を整えます。この睡眠サイクルが睡眠の「質」に大きく関わっています。加齢によりこの周期が崩れて、質の良い睡眠がとれなくなることがあります。 健やかな睡眠を維持するために、夜間も自律神経やホルモンなどさまざまな生体機能が働いています。 不眠症 不眠症は、必要な睡眠時間が十分にとれないことや、睡眠の質が低下することで、日中の疲労、集中力の低下、不調、気分変調などが起こり、生活に支障をきたす状態です。睡眠障害の中で最も多いといわれています。 不眠症には以下のようなタイプがあります 入眠障害 寝床に入ってもなかなか眠りにつけない。 中途覚醒 眠りが浅く途中で何度も起きてしまう。 早朝覚醒 早朝に目が覚めてしまい、それ以降眠れなくなる。 熟眠障害 ある程度の時間寝ているのに、ぐっすり寝たという感じが得られない。 うつ病や不安障害に伴う不眠症 うつ病や不安障害では環境の変化などをきっかけに、長期にわたり抑うつ状態や不安、緊張が継続されます。また、頭痛や胃痛、食欲低下、体重減少がみられることがあります。うつ病や不安障害では、高い頻度で不眠症が合併します。逆に不眠症の人がうつ病になりやすいことも知られています。 不眠を伴う身体疾患の例 むずむず脚症候群 寝床に入ると足に不愉快な感覚が現れ、じっとしていられなくなり睡眠が妨げられます。原因ははっきりとしていませんが、鉄欠乏やドパミンの機能低下が関連しているという報告もあり、鉄分の低下が起こる慢性腎不全・鉄欠乏性貧血・胃切除後や、末梢神経炎・パーキンソン病などに伴ってみられることもあります。また、アルコールやカフェインの摂取が症状を悪化させるといわれています。 睡眠時無呼吸症候群(SAS) 肥満などの影響で上気道が狭くなり、睡眠中に上気道が閉塞し口と鼻の呼吸が止まってしまう疾患で、睡眠が中断され熟睡できません。 SASは様々な合併症を引き起こします。とくに高血圧の合併率が高く、高血圧の患者の10%はSASを合併しているとの報告があります。「CPAP療法」が中等症〜重症の閉塞型睡眠時無呼吸症候群の標準的治療法として広く用いられています。 *CPAP(シーパップ)療法とは、機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する治療法です。 その他 外傷や関節リウマチ等の痛みを伴う疾患、湿疹や蕁麻疹等のかゆみを伴う疾患、喘息発作や頻尿、花粉症等の身体の病気や症状が原因で不眠を起こす場合もあります。この場合は身体的な病気を治療することで改善されることがあります。 睡眠障害の治療 睡眠障害が起こる原因となる疾患がある場合は、まずその疾患の治療を行います。 睡眠障害の治療では、生活習慣、睡眠環境を整えることが大切です。起床・就寝時刻を一定にし、起床後、太陽光などの強い光を浴びましょう。日中に適度な運動を行い、就寝前の喫煙やカフェイン、アルコールの摂取は控えましょう。 生活習慣や環境を整えても改善しない場合は、睡眠薬などの薬物療法や認知行動療法(ものの見方や行動を改めることによりストレス等を軽減させる方法)等の治療が必要な場合があります。精神科や心療内科などの専門医を受診して、経過や症状等を報告し、相談していきましょう。 不眠症の薬物療法〜効果と副作用〜 ベンゾジアゼピン系 最も一般的に処方されている薬です。ふらつきなどの副作用や依存性の心配があります。前向性健忘(服用後の体験や出来事を思い出せなくなること)に注意が必要です。 非ベンゾジアゼピン系 超短時間作用型の薬で、翌日まで作用が残ってしまうことは少ないです。ベンゾジアゼピン系より筋弛緩作用などが弱いため、ふらつきや転倒の危険性、依存性が緩和されています。高齢者ではせん妄(軽度から中等度の意識障害に加え、幻視、幻聴や興奮、異常行動がみられる状態)に注意が必要です。 メラトニン受容体作動薬 体内時計のリズムを整え睡眠を促す働きを持つメラトニンというホルモンと類似した作用があります。作用は緩徐ですが依存性の心配が少なく、総睡眠時間を増やす作用が期待できます。比較的高齢者にも安心して使用できます。 オレキシン受容体拮抗薬 睡眠からの目覚めを促すオレキシンというホルモンの働きを抑制することで眠りやすい体内環境を作り出します。依存性の心配は少なく、入眠をスムーズにし、中途覚醒を防ぐ効果も含まれます。せん妄を起こしにくく、高齢者や術後の患者にしばしば用いられます。 市販の睡眠薬の中には依存性や副作用への注意が必要となる薬もあります。 また、せん妄を起こす場合もあります。このような不安がある場合には専門医に相談しましょう。睡眠薬とアルコールを一緒に飲むことは、記憶障害やふらつき、呼吸抑制などの症状の出現に繋がる場合があるため、やめましょう。 お住まいの地域を管轄する保健所や保健センター、 精神保健福祉センター等で、ご本人やご家族、あるいは関係機関からのご相談に対応しています 東京都立中部総合精神保健福祉センター 〒156-0057 世田谷区上北沢2ー1ー7  相談電話:03-3302-7711(平日9時〜17時) 担当地域:港区、新宿区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、練馬区 東京都立精神保健福祉センター 〒110-0004 台東区下谷1ー1ー3 相談電話:03-3844-2212(平日9時〜17時) 担当地域:千代田区、中央区、文京区、台東区、墨田区、江東区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区、島しょ地域 東京都立多摩総合精神保健福祉センター 〒206-0036 多摩市中沢2ー1ー3 相談電話:042-371-5560(平日9時〜17時) 担当地域:多摩地域全域 東京都夜間こころの電話相談 電話03-5155-5028 毎日17時〜22時(受付は21時30分まで) 令和4年3月発行  登録番号(3)7