こころの健康だより .137 2023年6月号 特集「アルコールとのつきあい方をみなおす」 もくじ ●地域と取り組むアルコール依存症の対策 2 ●アルコールがひきおこすからだの問題 4 ●女性だからこそ知ってほしいアルコール健康障害 6                          ●東京都の令和5年度「精神保健医療予算」の概要 8 この「こころの健康だより」は中部総合精神保健福祉センターのホームページでもご覧になれます。 地域と取り組むアルコール依存症の対策 医療法人社団翠会 成増厚生病院 副院長 垣渕 洋一 1.アルコール依存症とは a)概念 アルコール依存症は、以下を特徴とする慢性疾患です。 @)病的飲酒欲求:自分の意志では我慢できないような強烈な渇望。 A)飲酒のコントロール障害:依存性と耐性(少量では酔わなくなる)の出現に伴い飲酒量が増加。 B)飲酒問題(合併症、職場、経済、家庭、司法などの問題)が積み重なる。 C)負のフィードバックへの抵抗:@~Bのため、減酒/断酒をするよう周囲から勧められても、抵抗して、飲酒問題が深刻になっていく。 b)診断 診断は家族歴、生活歴、既往歴、現病歴を聴取し、離脱症状(手の震え、大量の寝汗、イライラ、不安、不眠など)など理学的所見をとり、採血など検査データも踏まえ、診断基準(ICD-10 国際疾病分類第10版)に該当するかどうかを判断します。 c)経過・治療・予後 多くの疾患は、進行して重症になるほど、罹患していることを自覚して、治療を受ける動機が高まりますが、アルコール依存症は逆となります。 職場健診で、脂肪肝、アルコール性肝炎、脂質代謝異常が見つかり、保健師から指導を受ける程度のハイリスク飲酒(図1の<危険な使用>~<有害な使用>まで)なら、「何とかしなきゃ」と思います。そして、その時に、減酒に取り組めば、<害の少ない使用>に戻ることが可能です。 一方、大量飲酒を続けると、依存性と耐性が重症化し、アルコール依存症を発症してしまいます。一度、発症してしまうと、減酒は困難であり、生涯の断酒が必要だとされてきました。しかし、それを受け入れることは難しく、治療に繋がることを回避し、繋がっても、中断してしまいます。合併症だけを治療するために内科、救急科を受診するか、精神科に受診するとしても、飲酒問題を伏せて、気分障害、不眠、不安障害などとして受診します。 d)トリートメント・ギャップが大きい疾患 以上の理由により、日本には100万人を超える患者がいると推定されるのですが、アルコール依存症の治療を受けている人は5万人しかおらず、トリートメント・ギャップの大きな疾患です。多く人が蟻地獄(図1)にはまった蟻のように、ずるずると大量飲酒を続け、肝不全、急性膵炎といった合併症、自殺、事故で亡くなることも少なくありません。治療5年後の断酒継続率が20-30%、減酒継続率が8-19%と長期予後が悪い疾患です。 2. 地域連携=SBIRTS エスバーツ 当センターでも、初診の時点で、家族が離散し、経済的にも困窮し、肝不全など精神科では治療できない重度な合併症を抱えているなど、「もっと早く、治療に繋がっていれば」と思う方が大勢おり、日々、トリートメント・ギャップの大きさを痛感しています。 こうなっている理由としては、当事者にとってアルコールがあまりにも大事な存在で、「死んでも手放したくない」という心境であることや、「飲酒をコントロールできないのは意志が弱い、性格がだらしないからだ」といった偏見によることが知られています。 しかし、医療の側にも問題がありました。それは従来、酒害軽減のための医療の場が精神科であり、アルコール依存症が進行して、合併症が重度になるだけにとどまらず、家庭、経済、法的問題など様々な問題が深刻になった人に対して、断酒を突き付ける治療だけを提供してきたことです。 「ちょっと飲みすぎることはあるかな」という程度の自覚の人が、突然、周囲から、「アルコール依存症だと思うから、精神科を受診してほしい」と言われれば、抵抗があるのが当然です。家族に引きずられるようにして嫌々受診しても、すぐに中断してしまいます。 そこで、このギャップを小さくするため、従来の治療の前に、「広い範囲の人にスクリーニングを行い、飲酒問題が軽いうちに、抵抗が少ない減酒支援を行う」ことを組み合わせるという方法が考案されました。 この方法に効果があることをWHOが検証し、SBIRTと名付け、各国に推奨しました。日本では、2013年、アルコール健康障害対策基本法が成立し、同法に基づく施策として、国と自治体で推進することになりました。なお、日本では、「依存症からの回復のために自助グループ(self-help groups)が重要だから、英語の頭文字のSをつけよう」ということからSBIRTS(図2)としています。 SBIRTSを広めるために断酒会(回復のための自助グループ)が全国各地で講演会を開いています。 専門医療機関は減酒外来を行うようになりました。初診で飲酒問題の程度をスクリーニングして軽症なら、減酒により酒害軽減を目指します。スクリーニングには AUDIT(オーディット)(Alcohol Use Disorders Identification Test)というWHOが作成したテストが使われることが多いです。全部で10項目の設問から成り、各項目の合計点(最大40点)で飲酒問題の程度を評価します。減酒治療の対象となる点数は、大量飲酒による合併症の有無と重症度、合併症以外の飲酒問題の深刻さなどによっても変わってきますが、おおむね8~19点です。 減酒に成功し、ローリスク飲酒(7点以下)になったら治療終結が可能となります。逆に失敗し、20点以上になったら断酒を目標にした治療に切り替えることを検討します。 最近は、精神科ではなく内科でも減酒外来が開設されるようになりました。また、スクリーニングと減酒指導は、医療機関以外に職場の健康管理室や保健所でも可能です。 3.最後に 筆者は外来での個人の減酒治療と保健所での集団の減酒講座の講師を行っています。長年、お酒が好きでメリットも享受してきた人にとっては、減酒治療は断酒治療に比べて格段に抵抗が少ないです。そして、適応となる人を正しく選べば、飲酒問題が深刻となり、人間関係もこじれてしまった人と違い、最初から本人も積極的に取り組み、短期間で効果が出ることを経験しています。 都内各地でSBIRTSが普及して多くの方々が恩恵にあずかれることを願ってやみません。 アルコールがひきおこすからだの問題 地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立松沢病院 内科医長 長尾 知子 1. 内科とアルコールの深いご縁 松沢病院には様々な精神疾患をお持ちの方が受診されますが、アルコール依存症は、中でも内科が関わることが多い病気の一つです。なぜならアルコールの過剰摂取は、精神的、社会的な問題のみならず、からだの問題もひきおこすことが多いからです。かつて酒は百薬の長と言われましたが、最近ではそれも否定されてきています。1) 適度の飲酒を全否定するものではありませんが、過剰飲酒は万病のもとです。そんなわけで、松沢病院の内科とアルコール依存症とは、深いご縁があるのです。 2.全身のあらゆるところに現れる、 アルコールの「慢性中毒症状」 「酒の飲み過ぎで肝臓が悪くなった」という話はよく聞くと思いますが、アルコールの過剰摂取が引き起こすからだの問題(身体合併症)は、肝障害だけではありません。高血圧、糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症などの生活習慣病や脳卒中(脳出血、脳梗塞)、膵炎、大脳萎縮、認知症、脳症、末梢神経障害などを来たしたり、さらには咽頭、食道、肝臓、膵臓、大腸の癌や、乳癌のリスクを上昇させたりと、枚挙に暇がありません。 「お酒を飲んだ後に酔っ払って具合が悪くなる」のは「急性中毒」ですが、上記の身体合併症は、長期の過剰摂取がじわじわと体を蝕む、「慢性中毒」です。この慢性中毒症状の出方は個人差が大きく、肝臓は悪くないけれど食道癌が出来る、癌はないけれど膵炎を繰り返す、臓器障害はないけれど神経障害で歩けなくなるなど様々なので、「初期症状はこれだから皆ここに注意!」といった分かりやすい注意喚起は出来ません。例えば肝障害は血液検査で発見されることが多いですが、食道や大腸の癌はよっぽど進行しない限り血液検査で異常は出ません。ですから肝臓の数値だけ見ていたら他の病気の発見が遅れてしまうということもあり得ます。また神経障害は、一般的な検査では分かりませんが、初期の自覚症状は軽度なので本人は申告せず、かなり進行するまで認識されない危険性もあるのです。 3.身体合併症の予防と治療 肝障害 肝障害の出やすさも個人差があり、同じ量を飲んでも肝障害が出ない人もいれば、肝硬変に進行してしまう人もいます。同じ飲酒量でも、男性より女性の方が肝障害が起こりやすいと言われています。その他の肝障害を悪くする要因としては、肥満、糖尿病、脂質異常症などがあります。とはいえこれだけでは説明できない個人差があり、検査してみなければわかりません。肝障害の経過としてはまず、肝臓に脂肪が沈着(脂肪肝)、さらに飲み続けると肝臓に炎症が起こり(アルコール性肝炎)、慢性的に炎症が起こり続けると肝細胞がだんだん線維に置き換わり、徐々に肝硬変に移行します。肝硬変が進行すると明らかに寿命が縮むことがわかっています。肝障害の進行度合いの判断は、血液検査と画像検査を組み合わせて行います。肝障害の予防には、節酒あるいは断酒、およびバランスの良い食生活が必要です。お酒を飲みながら肝臓を治す薬はありませんので、治療は「断酒」です。脂肪肝〜肝炎の段階で断酒するとてきめんに改善することが多いですが、肝硬変では禁酒してもすぐには回復せず、時には急激に肝不全に陥り、亡くなってしまう場合もあります。 癌 アルコールに関連する癌の発症予防(一次予防)には、節酒、禁酒が一番ですが、既に長期飲酒でリスクが高い方では早期発見(二次予防)が目標になります。咽頭、食道癌の早期発見にはいわゆる胃カメラ、大腸癌の早期発見にはいわゆる大腸カメラといった内視鏡検査が有用です。早期発見出来れば体に負担の少ない治療で完治を目指せることが多いのは、多くの癌に共通した特徴です。過剰飲酒の自覚がある方は、がん検診や人間ドックなどで、消化管内視鏡検査、腹部超音波検査などを積極的に受けて下さい。そういった機会がない方は、どこまで保険診療として行うかは病状によりますが、かかりつけ医や、当院アルコール内科へご相談ください。 神経障害 アルコールに関連する脳症や神経障害には、ビタミン欠乏が関与しています。アルコールを飲むと食事をとらない方は、ビタミン摂取量が足りないうえ、アルコール代謝の過程でビタミンが消費されてしまうため、ビタミン欠乏を起こしやすく、神経障害の危険性があります。予防方法は飲酒の際は最低限のビタミンと糖質を摂るようにすること。中でもビタミンB群(B1, B12)の摂取が大切です。B1は豚などの赤肉やごま、B12はあさりなどの貝類や海藻類に多く含まれますが、食事からの摂取が難しい場合はサプリメントでも良いので積極的に摂取してください。治療は禁酒とビタミン補充になりますが、神経組織は一度壊れると元に戻らない性質があるため、元に戻す治療法はありません。だからこそ、予防が特に重要なのです。 生活習慣病 アルコール多飲が主要因となっている生活習慣病については、禁酒で劇的に改善することがあります。高値だった中性脂肪の値が禁酒したら正常値になった方、血圧が高く降圧薬を要していたのに、禁酒したところ血圧が下がり降圧薬が不要となった方もいらっしゃいます。 4.「適量」とは? 飲酒量といっても種類によって度数が異なり、1日にビール500mlとウィスキー500mlでは大違いなので、アルコール摂取量を表すときは液体量ではなく、その中に含まれるアルコールの量(純アルコール摂取量)を「g」で表します。《液体量(ml) × アルコール度数(〇/100)× 0.8 =アルコール量(g)》簡単に計算できるサイト等もあるので、探してみてください。 さて、では「適量」とはどのくらいなのでしょう。 各種のリスクを高める1日当たりの平均純アルコール摂取量は、 ?生活習慣病 男性:40g以上、女性:20g以上 ?食道癌 23g以上、週5日以上飲酒するALDH2欠損者(飲酒後赤くなる体質の人)2) ?大腸癌 30g以上2) ?高尿酸血症による痛風発作 10〜14.9g以上3)とされます。 一方厚生労働省は節度ある適度な飲酒量を20g程度としています。20gが適量とはいえ10gでも痛風のリスクは上がる。男性で生活習慣病のリスクを高めるのは40g以上だけど30gでも癌のリスクは上がる。これらのことから言えるのは、「〇gだから大丈夫とは言えないけれど、1日20g程度まで(日本酒だと1合、ビールだと500ml)なら、大きな合併症は起こさずに済みそうだ」くらいでしょうか。最近の研究では、飲酒量は少なければ少ないほど良い(「適量」などない!)と結論づけているものもあります。4) 休肝日の効果については、日本人男性に限ったデータではありますが、週300g以上飲酒する大酒家は、週3日の休肝日をもうけた方が、全死亡率が下がるという結果が出ています。5) 5.まとめ 以上が合併症という観点から見たアルコールのお話です。もちろんアルコールには、趣味としての楽しみ、ストレス緩和など、良いところもあると思います。合併症がさほど重度でなければ、節酒でも改善が見込める病態もあります。最近は飲酒量低減を目的とした治療薬もありますので、会社の健診で異常を指摘されている方は、まずは放置せずに医療機関にかかって頂き、外来で節酒の相談をしてみるのもよいと思います。そして飲酒する際は、最低限のビタミン、栄養を確保してください。もちろん食べ過ぎも禁物です。そんなわけで、「飲酒するなら適量を守って」「バランスの取れた食生活を」というありふれたアドバイスに辿り着くのです。 参考文献: 1)Lancet. 2018;391(10129):1513 2)医学のあゆみ vol.274 No.1 2020 3)新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインp108 4)Lancet. 2018;392(10152):1015. 5)Am J Epidemiol. 2007; 165:1039?1046 女性だからこそ知ってほしいアルコール健康障害 武蔵野大学人間科学部社会福祉学科 教授 特定非営利活動法人ASK 副代表 稗田 里香 1.若い女性の多量飲酒者が増加 日本のアルコール依存症対策の大きな目標の一つが、女性の多量飲酒を減らすということをご存じでしょうか。アルコール依存症というと、男性をイメージされる方が少なくないと思います。国は、第1期アルコール健康障害対策(2016)において生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合を令和4(2022) 年度までに男性 13.0%、女性 6.4%とすることを目標にしました。しかし、令和元(2019)年国民健康・栄養調査では、多量に飲酒している者の割合は男女とも改善していません。特に、若い女性については、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合は有意に増加しており、相対的に女性のアルコール健康障害対策の重要さが増しているのです。こうした背景には、コンビニなどで24時間お酒が買える、果実味のお酒など企業が女性をターゲットにしている、「女子会」など女同士で飲む、手軽なストレス解消やコロナ感染リスクを避けるための「家飲み」の定着など、社会環境の変化が大きく影響していると考えられます。 2.女性が気をつけなくてはいけないアルコール健康障害 皆さんが口にする酒類は、エチル・アルコールという依存性薬物が入っています。この薬理作用によって、性別にかかわらず、アルコール依存症は、進行すると身体的(アルコール性臓器障害など)・精神的(うつ、アルコール性認知症など)・社会的(経済、仕事、人間関係など)・霊的(存在価値など)など、健康のすべてを脅かします。ただし、女性は男性に比べ次のような特有のリスクがあります。 @臓器にダメージを受けやすい 男性より少ない飲酒量・飲酒期間で、肝硬変などの臓器障害になる。 Aアルコール依存症になりやすい 男性の場合は飲酒が習慣化してから依存症になるまでに10〜20年以上かかるとされるが、女性の場合は6〜9年と短くなる。 B少量であっても乳がんのリスクが高まる 週にグラス3〜6杯のワイン程度でもリスクが上昇、1日あたりの純アルコール摂取量が10グラム増えるごとにリスクは10%高まる。(10グラムの目安は、ワインなら小グラス1杯、缶チューハイなら350ml缶半分、ビールなら250ml。つまり少量でも習慣的な飲酒は危険) C酔うと、性暴力の発生リスクが高まる D大量の飲酒は女性ホルモンの分泌を低下させ、月経不順・無月経・卵巣萎縮・性交痛などを引き起こす危険がある E妊娠中の飲酒は、流産や、胎児の障害をまねく危険性がある 妊娠中の飲酒が胎児にもたらす障害を「胎児性アルコール症候群(FAS)」や「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」といいます。顔つきの特徴や発育の遅れがなくても、アルコールにより中枢神経の発達が影響を受け、さまざまな行動障害として表面化することがわかってきました。 F摂食障害と飲酒 女性のアルコール依存症に、過食や拒食などの摂食障害(物質と行為の両方の依存といわれます)も関係していることがあります。アルコール依存を予防するために、他の依存的傾向が見られる段階で早めに専門家や自助グループにつながることも大切です。 3.飲酒は生き延びるための自己治療 アルコール依存症に対する世間の誤解や偏見は、まだまだ根強いものがあり、これが、治療や相談など助けを求めにくくし、孤立させ、健康障害を悪化させる大きな問題の一つとなっています。「女のくせに」というレッテルは、依存症に苦しむ女性たちをさらに追い詰めます。この考え方は過去のものにしなくてはなりません。近年の依存症医学の進歩により、依存症はジェンダーないし本人の意志の弱さやだらしなさではなく、依存性物質や行為による脳機能の異常、つまり「脳の病気」と捉えられ、診断基準もあります。また、飲んでいる本人は好きで飲んでいるのではく、様々な生きづらさのなかで「生き延びるため」に依存性薬物の使用や行為をする「自己治療」という考え方も広がり、依存に苦しんでいる人を責めるのではなく、「苦しい中、何とか生きようとしてきたんだね」と共感することが重要と考えられるようになってきました。 4.迷っているならつながって 自分の飲酒が問題かどうか、知りたいような知りたくないような・・・。治療につながれば飲めなくなるかもしれない・・・。もし、あなたが、このように迷っているとしたら、それは、すでに回復への入り口に立っているのかもしれません。アルコール依存症は、知らぬ間に生活に棲みつく病気ともいわれます。子育てや家事、職場、人間関係のストレスを、「ちょっと一口」と軽い気持ちで解消することから飲酒がやめられなくなったということを、多くの女性の依存症回復者の方の語りから何度聴いたことでしょうか。 迷っているなら、できるだけ早く、精神保健福祉センターや保健所の専門相談や地域に必ずある依存症専門治療機関、断酒会、AAなどの自助グループにつながってほしいと思います。飲酒問題は、個人の問題ではありません。女性の地位や役割などを規定するジェンダー構造や文化、制度など大きな環境から生み出される社会の問題なのです。2013年に制定されたアルコール健康障害対策基本法には、国、地方自治体、医療従事者、国民すべての責任によって、アルコール健康障害の発生予防、進行予防、再発予防を、計画的かつ具体的に進めていくとはっきり書かれています。決して恥ずかしいことではなく、むしろ隠し続けているほうがどんどん悪化していく可能性があります。アルコール依存症は進行性の病ともいわれていますが、治療や支援方法があり、回復することが可能な病気であることは間違いありません。 5.パートナーや配偶者、親、子等 身近な女性の飲酒問題にお困りの方へ 依存症は、周囲をまきこむ病気ともいわれています。もちろん、本人はそのつもりではありません。しかし、依存症になると、生活や価値の優先順位がすべて飲酒最優先となります。その結果、朝起きれず子どものお弁当が作れない、家が片付かない、学校や仕事に行けないなど、家庭の機能が損なわれたり、家族役割が変化したりします。例えば、夫は仕事だけでなく、妻が担っていた子育てや家事の役割も担わざるを得なくなり、そのような妻に暴力で飲酒をやめさせようとしたり、子どもにそのストレスをぶつけるなど家庭内暴力や虐待などの深刻な問題に発展する可能性もあります。パートナーや家族の立場にある方が飲酒の問題に気づいたら、自分たちだけで何とかしようとせず、精神保健福祉センターや、家族会などの自助グループ(オンラインで行っているところもあります)に相談することが解決のきっかけとなります。まきこまれている自分たちの体や心をケアし、依存症という病気の正体を知り、新たなライフスキルを身につけることが、結果的には、飲酒しているご本人の問題が好転するターニングポイントとなる場合がおおいにあります。 お近くの相談、治療先の情報については、精神保健福祉センターにご相談ください。また、以下のウェブサイトを参考にしてください。 ●厚生労働省依存症対策推進室  https://www.mhlw.go.jp/izonshou/tokusetsu.html ●NPO法人ASK(アスク)  https://www.ask.or.jp ●依存症オンラインルーム  https://www.ask.or.jp/adviser/online-room.html (引用、参考文献) ●ASKリバーシブル予防パンフ『(1)妊娠とアルコール/女性とアルコール』 ●大嶋栄子(2019)『生き延びるためのアディクション』金剛出版 ●松本俊彦(2022)『アディクションの地平線』金剛出版 ●副田あけみ 遠藤優子(1998)『嗜癖問題と家族関係の問題への専門的援助』ミネルヴァ書房、26頁 東京都の令和5年度「精神保健医療予算」の概要 ― 総額453億円 ― ● 精神障害者医療費助成 精神障害者の保健の向上及び福祉の増進を図るため、医療費の一部を助成する。 1 措置患者医療費公費負担14億8千万円 2 自立支援医療(精神通院医療)の支給400億円 3 小児精神障害者入院医療費助成6千万円 4 支払事務委託等10億1千万円 ● 精神科救急医療 精神障害者に対し、救急医療体制の確保を行う。 1 精神科救急医療体制8億8千万円 2 精神科二次救急医療体制3億8千万円 3 精神科初期救急医療体制8千万円 4 精神科救急医療情報センター 6千万円 ● 精神障害者の退院促進 入院患者及び精神科病院等に対して退院促進に向けた働きかけ、地域定着体制整備の調整を行う。2億円 ● 相談支援体制等の充実 精神障害者の自立と社会参加を促進するため、相談体制・地域生活支援等の充実を図る。 1 発達障害者支援1千2百万円 2 ペアレントメンター養成・派遣事業1千2百万円 3 発達障害専門医療機関ネットワーク構築事業 1千3百万円 4 高次脳機能障害支援1億3千1百万円 5 保健所精神保健福祉事業等3億3千万円 6 夜間こころの電話相談2千7百万円 7 都営交通乗車証発行事業2千8百万円 8 精神科医療地域連携事業4千8百万円 9 災害時こころのケア体制整備事業8百万円 10 災害時精神科医療体制整備事業6百万円 11 難治性精神疾患地域支援体制整備事業1千2百万円 12 措置入院者退院後支援体制整備事業1千1百万円 13 精神障害計画相談支援従事者等養成研修事業2百万円 14 依存症対策の推進1千7百万円 15 てんかん地域診療連携体制整備事業5百万円 16 摂食障害治療支援体制整備事業5百万円 17 医療・福祉事業所内メンタルヘルスセルフケア等スキル向上支援事業2千5百万円 ● 精神障害者関係各センターの運営等 1 発達障害者支援センター5千万円 2 総合精神保健福祉センター等4億1千万円 新規事業の概要 摂食障害治療支援体制整備事業 摂食障害について、適切な治療と支援により患者が地域で支障なく安心して暮らすことができる体制を整備するため、医療機関等の連携促進等、必要な検討を行う。 東京都 こころの健康だより No.137 令和5年6月発行 発行 ◆東京都立中部総合精神保健福祉センター広報研修担当  〒156-0057 世田谷区上北沢二丁目1番7号 電話 03-3302-7704 FAX 03-3302-7839 ◆東京都立精神保健福祉センター調査担当  〒110-0004 台東区下谷一丁目1番3号 電話 03-3844-2210 FAX 03-3844-2213 ◆東京都立多摩総合精神保健福祉センター広報計画担当  〒206-0036 多摩市中沢二丁目1番地3 電話 042-376-6580 FAX 042-376-6885 登録番号(4)11 (次号は令和5年10月発行予定です)