食物アレルギー
最終更新日:令和元年9月19日 | 公開日:平成29年4月21日
食物アレルギーとは
アレルゲンには、ダニ、カビ、花粉、食物などいろいろなものがありますが、その中で、食物が体内に入り、アレルギー反応を引き起こす場合を食物アレルギーと呼びます。
また、食物に触ったり、吸い込んだりしただけでも症状が出ることがあります。
食物アレルギーはどうして起きるのでしょう
私たちの体には、ウィルスや細菌が入り込むと、“ 抗体” を作ってそれを排除しようとする「免疫」という仕組みがあります。この仕組みの1つに、ダニや花粉、一部の食物に対して、“IgE 抗体” を作ってしまうことがあります。このIgE抗体は、皮膚や粘膜にあるマスト細胞の表面にくっつき、ダニや花粉、食物などのアレルゲンが入り込んでくるのを待っています。この状態を“ 感作” と言います。
この感作された状態で再び原因物質が体の中に入り込むと、マスト細胞についているIgE 抗体と結びつき、その刺激でマスト細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されます。これら化学物質が様々なアレルギー症状を誘発します。
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- 読み物(IgEとIgG)
食物アレルギーの症状
食物アレルギーの症状としては、皮膚のかゆみ、発赤、じんましん、湿疹などの皮膚症状が多くみられます。その他、腹痛や下痢などの消化器症状、咳、ぜん鳴(ゼーゼー)や呼吸困難などの呼吸器症状、目や鼻などの粘膜症状が現れます。
アナフィラキシーとは
アレルギー症状が皮膚、消化器、呼吸器など2 臓器以上に出現した状態をアナフィラキシーと呼びます。
アナフィラキシー症状が進行し、血圧が下がり始めた状態がアナフィラキシーショックです。こうなると意識が悪くなったり、もうろうとしてきたりして、生命の危機を伴います。日本では、毎年3人程度アナフィラキシーショックが原因で亡くなっています。このため早急で適切な治療が必要となります。
食物アレルギーのタイプ
1. 即時型食物アレルギー
食物摂取後1~2時間以内、特に15 分以内に多く症状が出現します。
全身じんましんや咳、ぜん鳴、呼吸困難、嘔吐、下痢など様々な症状が現れる可能性があり、なかにはアナフィラキシーからアナフィラキシーショック症状へ至る場合も少なくありません。
発症時期
全ての世代で新たに発症するタイプですが、乳幼児期の発症が極めて多くみられます。
原因食物
乳児~幼児:鶏卵、牛乳、小麦、魚卵、ピーナッツなど
学童~:甲殻類、果物類、小麦、魚類など
原因食物は年齢によって異なります。乳幼児期では、鶏卵、乳製品、小麦が3大アレルゲンとして知られていますが、小学校以上ではそれらは減少し、甲殻類(えび、かになど)、果物類、魚類などのアレルギーが増えていきます。
このほか、ピーナッツ、そば、魚卵、木の実などさまざまな食物が原因となります。最近では、幼児のいくらやピーナッツによるアレルギーが増えてきています。
即時型食物アレルギーの年齢群別に見た主な原因食品
※食物摂摂食後60分以内に何等かの症状が出現し、かつ医療機関を受診した患者
0歳 | 1歳 | 2,3歳 | 4‐6歳 | 7-19歳 | ≧20歳 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 鶏卵 | 鶏卵 | 鶏卵 | 鶏卵 | 鶏卵 | 小麦 |
2位 | 牛乳 | 牛乳 | 牛乳 | 牛乳 | 牛乳 | 甲殻類 |
3位 | 小麦 | 小麦 | 小麦 | ピーナッツ | 甲殻類 | 魚類 |
4位 | 魚卵 | 魚卵 | 小麦 | ピーナッツ | 果物類 | |
5位 | ピーナッツ | ピーナッツ | 果物類 | 小麦 | ソバ |
厚生労働科学研究班による「食物アレルギー診療の手引2014」より引用改変
症状
食物アレルギーでみられる様々な症状が現れます。
詳しくは「原因と症状」のページをご覧下さい。
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- 基礎知識(食物アレルギー)
経過
乳幼児の即時型食物アレルギーで頻度の多い鶏卵、乳製品、小麦、そして大豆は3歳までに約50%、6歳までに約80%から90%が自然に食べられるようになります。これを耐性化といいます。
一方、それ以外の食物(ピーナッツ、そば、魚類、果物類など)のアレルギーは治りにくく(耐性を得にくく)、長時間、時に生涯にわたる除去を必要とすることがあります。
2. 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
発症時期
乳児期にアトピー性皮膚炎に伴って発症し、年齢とともに治っていくタイプです。
(すべての乳児期のアトピー性皮膚炎が食物に関与しているのではなく、約50%から70%に食物が関与していると考えられています。)
原因食物
鶏卵、牛乳、小麦、大豆など
症状
湿疹
経過
幼児以降は、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因として関与することは少なくなっていきます。
3. 新生児・乳児消化管アレルギー
発症時期
新生児から乳児期前半に、血便・下痢・嘔吐などの消化器症状で発症するタイプです。細胞性免疫が関与すると考えられています。
原因食物
牛乳(粉ミルクを含む)、大豆、コメなど
症状
原因食物を摂取後数時間から、なかには数日後に消化器症状が出現します。嘔吐、下痢、血便などの消化器症状が主体です。
4. 特殊なタイプ
①口腔アレルギー症候群(OAS)
原因食物が口などの粘膜にふれることによって症状が現れます。花粉症と果物類とのアレルゲン共通性があり、花粉症患者に伴いやすい傾向があります(花粉果物アレルギー症候群:PFAS)。ハンノキ科(ハンノキ、シラカバ、ヤシャブシなど)花粉症とバラ科果物(モモ、リンゴ、イチゴなど)、ブタクサ花粉症とウリ科果物(メロン、スイカ)に関係があります。発症は学童期以降に多くなります。
原因食物
果物類(キウイ、リンゴ、モモ、メロンなど)など
症状
原因食物を食べた後、多くはすぐに口からのどの症状(口やのどのかゆみ、ヒリヒリ感、イガイガ感、唇の腫れなど)が出現します。まれにアナフィラキシーが起こることもあります。
②食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
原因食物を食べて一定の運動をしたときにだけ症状が誘発されるのが特徴です。運動量が増加する小学校高学年から成人に多いアレルギーです。
原因食物
小麦6割、甲殻類3割、その他
症状
原因食物を食べて大部分は2時間以内に、一定以上の運動をしたときにだけ症状が現れます。症状は急速に進行し、アナフィラキシーが現れることもまれではありません。
次:診断と治療食物アレルギーの診断
食物アレルギーの診断において、”問診”(聞き取り)は最も重要です。何をどれくらい食べたら、何分後にどんな症状が現れたのかなど、時間をかけて詳細に聞きます。
即時型の場合は、原因食物を特定しやすく諸検査を省略することもありますが、その診断の基本は食物除去および食物経口負荷試験を行うことにあります。
なお、血液検査や皮膚テストは診断の根拠にはなりません。あくまでも診断の補助として評価します。
また、乳児の湿疹やアトピー性皮膚炎は食物が原因であると思われがちですが、実際は必ずしもそうとは限りません。問診を充分に取り、検査を実施し、冷静にそれらの結果を評価しながら診断をしていきます。
食物アレルギーを診断するときに使われる検査
検査名 | 目的や内容 | |
---|---|---|
診断の根拠となる検査 | 食物除去試験 | 非即時型の診断に用いられる試験です。問診や食物日誌、血液検査や皮膚テストによって原因と疑われた食物とその加工品を、日々の食事から完全に、約1週間から2週間除去します。除去した結果、皮膚症状などのアレルギー症状がよくなるかを確認し、診断根拠の一つとします。ただし、除去試験で症状の改善が得られても、診断は確定せず、食物経口負荷試験を行う必要があります。 |
食物経口負荷試験 | 食物アレルギーの診断には必須の検査です。原因と疑われた食物を食べて、症状が出現するかどうかをみる検査です。 ただし、アナフィラキシー症状を起こす危険が高い場合や、明らかな陽性症状がある場合、血液検査などの結果によっては食物経口負荷試験を省略して診断することもあります。 |
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診断の補助検査 | 血液検査 特異的IgE抗体検査 |
原因物質に対するIgE抗体の量を調べる検査です。IgEの量を0から6までにクラス分けして、0が陰性、1が偽陽性、2から6までが陽性とされます。しかし、陽性または陰性などの結果は食物アレルギーを診断する根拠にはなりません。 検査結果においてクラスが高ければ高いほど診断の確からしさが高まるだけで、あくまでも補助的な位置づけです。 |
皮膚テスト (プリックテスト) |
アレルゲンエキスを皮膚にのせ、専用の針で小さな傷をつけて、皮膚のアレルギー反応をみる検査です。血液検査と同様に、この検査だけで食物アレルギーを診断することはできず、結果は診断の補助的な位置付けとなります。 口腔アレルギー症候群の診断に用いるときは、原因と疑われる果物や野菜そのものの果汁、野菜汁によるプリックテストが有用です(プリックトゥプリックテスト) |
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治療
1. 原因となる食物の除去
医師の正しい診断に基づき、最小限の範囲で原因食物を除去することが原則です。除去する食物の種類や除去の程度と方法、期間について医師と十分に相談してから始めましょう。
除去食のポイントについては、「対応・対策」のページをご覧下さい。
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- 対応・対策(食物アレルギー)
2. 薬物療法
食物アレルギーには発症を予防する薬や、早く食べられるようになる(耐性を獲得する)薬はありません。以下の薬物は多くの場合、併用する必要はありません。
(1)クロモグリク酸ナトリウム(商品:経口インタール®)
処方の適応は食物アレルギーに関連する皮膚症状のみです。通常は、適切な除去食を行えば皮膚症状は改善するため、ほとんどの場合は服用の必要がありません。内服すれば、食物アレルギーが治りやすくなったり、原因食物を少量なら食べても症状が起きないようにしたりすることは一切ありません。
このため本薬の内服を始める前に、改めてスキンケアや軟膏療法が適切に行えているかを見直すと良いでしょう。
なお、服用は食前15~30分前に微温湯に溶かして行います。
(2)抗ヒスタミン薬
食物アレルギーによるかゆみなどの皮膚症状のコントロールを目的に処方されることがありますが、原因となる食物を適切に除去することで通常は必要なくなります。インタール®と同様に食物アレルギーが治りやすくなる効果はありません。また原因食物による弱い皮膚・粘膜症状は抑える可能性はありますが、アナフィラキシーを含めた中等度以上の症状を抑える効果は期待できません。
これ以外には、原因食物の誤食時のアナフィラキシー対応として処方されることがありますが、その効果は限定的です。
(3)アナフィラキシーの治療
過去にアナフィラキシーを起こしたことがある場合や、アナフィラキシーを起こす可能性が高いと予想される場合には、アナフィラキシーショックの補助治療薬として携帯できるアドレナリン自己注射(商品名:エピペン®)を処方されることがあります。医師が処方するもので、本人や保護者、救急救命士等が注射できます。
重篤なアナフィラキシーショック症状が現れたら、30分以内にアドレナリンを投与することが患者の生死を分けると言われており、適切で迅速な使用が求められます。ただし、効果の持続時間は10分程度であり、重篤な状態に陥る可能性があるため、エピペンを打ったら、必ず救急要請し、救急車で医療機関を受診します。
エピペン®について
エピペン®はアドレナリンの量によって2種類(0.15㎎製剤、0.3㎎製剤)あります。0.3㎎製剤(黄色)は体重30㎏以上、0.15㎎製剤(緑色)は体重15㎏以上30㎏未満に処方されます。
普段から使用方法と管理方法を確認し、いざという時に正しく使用できるようにしておきましょう。
緊急時の対応については、「緊急時対応」のページをご覧ください。
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- 対応・対策(緊急時対応)
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