成人のぜん息
最終更新日:令和3年4月7日 | 公開日:平成29年4月21日
成人のぜん息とは
ぜん息は、ハウスダスト、ペットによるアレルギー反応やたばこの煙、激しい運動、ウイルス感染などさまざまな刺激により、気管支の収縮、粘膜のむくみ、分泌物(たん)の増加がおこることで空気の通り道が狭くなる呼吸器のアレルギー疾患です。気管支の空気の通り道が狭くなることで息をする時にゼーゼー・ゼロゼロ・ヒューヒューというぜん鳴という音が聞こえたり、咳(せき)がでたりし、進行すると呼吸困難になります。ぜん息急性増悪(発作)(以下、「急性増悪(発作)」を「発作」と記載)と呼ばれるこの呼吸困難は、しばしば繰り返されます。この発作は自然に、または気管支拡張薬の投与によって治まることが多いですが、救急受診、入院治療が必要になることがあり、生命に関わることもあります。
さらに気を付けなければいけないことは上記のような症状がない時も、気道(気管、気管支)では炎症が続いていて、いつでも発作が起こりやすい状態が続いているということです。この慢性的な気道の炎症を治療することで、ぜん息の症状や発作がおこらない生活ができるようになります。
子供のぜん息から持ち越す人や再発する人もいますが、成人以降で発症する人も少なくありません。
また、ぜん息であってもきちんと普段から症状を改善して発作予防の管理薬を定期的に使用することで健常者と同様の日常生活を送ることができる方が多いです。
特徴
子供のぜん息では、アレルギーと関連のあるタイプ(アトピー型)が多いのに比べ、成人のぜん息ではアレルゲン(ぜん息の原因となる物質)を発見できない非アトピー型が増加します。ダニ等の環境要因だけでなく、かぜやインフルエンザなどのウイルス感染後に咳やたんの症状が長引くことをきっかけに、ぜん息と診断される場合もあります。また、ぜん息患者さんの一部(1割ほど)ではアスピリンや解熱・鎮痛薬の使用によりぜん息が増悪することがあり(アスピリンぜん息)、注意が必要な場合があります。
ぜん息のコントロールが不十分だと、長期にわたり気管支粘膜の炎症状態が続き、気道の壁が厚く硬くなり、もとの状態に戻りにくくなります。これを気道の「リモデリング」といいます。気道のリモデリングが起きると、ぜん息の症状が改善しにくくなったり、発作の頻度が増したりします。成人のぜん息が子供のぜん息に比べて寛解*しにくい傾向にあるのはこのリモデリングが一因とも考えられます。
(*寛解とは症状が落ち着いて安定している状態を言います)
ぜん息の発作を起こしたり誘発したりする原因
ぜん息があると、気道粘膜はとても敏感になっているので、さまざまな刺激に反応してしまいます。下に主な原因を示します。どのような原因でぜん息の症状が悪化しやすいかを自分で知っているとぜん息症状のコントロールや発作予防にも有用です。
- タバコや花火、線香などの煙
- 吸入アレルゲン(ダニのフンや死がい、ハウスダスト、カビ、動物の毛やフケ、昆虫の成分、花粉など)
- ウイルスなどによる呼吸器感染
- 天候や季節(季節の変わり目や台風などの気象の変化など)
- 激しい運動(運動誘発ぜん息)
- ストレス
- 薬剤(アスピリン等の含まれた解熱薬や鎮痛薬を飲んだり、注射したりした後で、ぜん息の発作が起こる方がいます。こうした成分は内服薬や注射だけではなく、座薬や湿布薬でも発作が誘発されることがありますので注意が必要です)
診断
ぜん息かどうかを診断するためには、問診や診察(聴診など)でぜん息に特徴的なエピソードがあるかどうかを確認することが最も重要です。ぜん息を疑う状況であれば、採血検査や呼吸機能検査の結果を参考に治療内容を話し合います。また、ぜん息と似た症状を示す他の病気と判別するための検査が必要となることもあります。これらの検査を行うことで、ぜん息の重症度やその原因を推測することも可能です。
①問診
- いつ頃から
-
どんな症状
- どんな時に咳が出るか(夜間?運動後?季節性など)
- どんな音がするか(ゼーゼー、ヒューヒューなど)
- 発作的な息苦しさがあるか
- ぜん息以外のアレルギーについて(アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎・花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、薬剤へのアレルギーなど)
- 家族(血縁関係のある)のアレルギー疾患の有無
- 治療をしている場合は治療の様子(薬と使用期間など)
などを尋ねられますので、受診の時にはあらかじめメモしておくとよいでしょう。
②検査
ぜん息の診断や原因の評価、さらに他の病気との鑑別のために次のような検査が行われることがあります。
- 血液検査・皮膚検査 ⇒ アレルギー体質かどうか、アレルゲンは何かを調べる。
- 胸部単純X線撮影 ⇒ 肺、心臓や気管支の構造に異常がないか調べる。
- 呼吸機能検査・気道可逆性検査・気道抵抗測定⇒気道が狭くなっているか調べる。
- 呼気中NO(一酸化窒素)検査 ⇒ 気道に起きているアレルギー性の炎症の程度を調べる。
- 気道過敏性検査 ⇒ 気道が刺激に対してどれくらい敏感になっているか調べる。
重症度について
ぜん息がどのくらい重症なのかは症状の程度や起こる回数によって判定されます。治療前の重症度は以下の様に分けられます。医師は患者さんのぜん息の程度を見極めて薬を決めていきますので、ぜん息の症状の程度や発作の頻度をきちんと把握しておきましょう。既に治療を行っている人では症状の出かたとぜん息治療薬の使用状況を合わせて重症度を判断します。
未治療患者の臨床所見によるぜん息重症度の分類(成人)
重症度※1 | 軽症間欠型 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 | |
---|---|---|---|---|---|
ぜん息症状の 特徴 |
頻度 | 週1回未満 | 週1回以上だが 毎日ではない |
毎日 | 毎日 |
強度 | 症状は軽度で 短い |
月1回以上 日常生活や 睡眠が妨げられる |
週1回以上 日常生活や 睡眠が妨げられる しばしば増悪 |
日常生活に制限 しばしば増悪 |
|
夜間症状 | 月に2回未満 | 月に2回以上 | 週1回以上 | しばしば | |
PEF FEV1 ※2 |
%FEV1,%PEF | 80%以上 | 80%以上 | 60%以上80%未満 | 60%未満 |
変動 | 20%未満 | 20~30% | 30%を超える | 30%を超える |
※1:いずれか1つが認められればその重症度と判断する。
※2:症状からの判断は、重症例や長期罹患例で重症度を過小評価する場合がある。
呼吸機能は気道閉塞の程度を客観的に示し、その変動は気道過敏性と関連する。
%FEV1=(FEV1測定値/FEV1予測値)×100
%PEF=(PEF測定値/PEF予測値または自己最良値)×100
なお、PEFはピークフロー、FEV1は1秒量のことです。
(出典:一般社団法人日本アレルギー学会作成 「喘息予防・管理ガイドライン2018」より一部引用)
次:治療治療
治療の目標は、
- 気道の炎症を抑えること
- 気道が狭くならないように保ち、症状を軽くすること
- 日常生活を健康な人と変わらず送ることができること
- 将来にわたって呼吸機能が悪くならないようにすること
- ぜん息によって命を落とす事を避けること
この中で、1の「気道の炎症を抑えること」が、続く2-5の目標を達成するために最も重要です。気道の炎症は、吸入ステロイド薬を症状のないときにもきちんと毎日使用することで抑えることができます。
治療の基本
- 医師の指導のもとで定期的な服薬や吸入を行う『薬物療法』
- 患者さんや家族が協力して生活環境から原因・悪化因子を減らす『環境整備』
- 自ら治療に参加し、続けられるように正しい知識と判断力をつける
『自己管理(セルフケア)の力をつける』
薬物療法(医師の指導のもとで定期的な服薬や吸入を行う)
ぜん息を治療するための薬は「発作治療薬(レリーバ)」と「長期管理薬(コントローラー)」の2種類あります。
発作治療薬(レリーバ)
発作が起きた時に、狭くなった気道を広げて呼吸を楽にする薬です。しかし、発作治療薬は一時的に症状を改善するだけなので、日々の良好な管理のためには、毎日定期的に長期管理薬を使用し、日ごろから気道の炎症を抑えることが重要です。
長期管理薬(コントローラー)
咳やたんの症状がなく、苦しくない時も気道の炎症を鎮めて発作を予防する吸入ステロイド薬などです。
症状が出ていなくても気道の炎症は続いているので、虫歯予防のために毎日歯磨きをするように、毎日定期的に長期管理薬を用いて「気道の炎症」を抑え、少しの増悪因子に曝露されたとしても敏感に反応しすぎない状態を維持していくことがとても大切です。
上手に吸入ステロイド薬などを吸入するために大切なこと
吸入薬は上手に吸入しないと期待する効果が現れません。上手に吸入するためには、吸入のコツがあるので、コツを掴んで確実に吸入しましよう。
吸入薬には液状のタイプ(機械式吸入器で吸入します)、エアロゾルタイプ(シュッとガスとともに噴霧されるタイプ)、ドライパウダータイプ(吸い込んだときにその勢いで細かい粉を吸入するタイプ)があります。年齢などを考慮して、最も効率的に吸入できるタイプが処方されます。エアロゾルタイプの薬剤で吸入が難しい場合はスペーサー(吸入補助器具)を使うことが勧められます。
せっかく薬剤を吸入していても、吸入方法が適切でないとその意味がなくなってしまいます。主治医や薬剤師などに日頃の吸入方法を時々確認してもらいましょう。
抗体製剤
十分量の長期管理薬を用いても症状が残存したり、増悪の頻度が多かったりする重症なぜん息の方に対しては、ぜん息の原因をピンポイントで阻害する注射薬(抗体製剤)の投与が検討されます。
現在、成人のぜん息に対して保険適用となっている抗体製剤はゾレア、ヌーカラ、ファセンラ、デュピクセントの4種類です。どの抗体製剤の効果がでやすいかは、患者さんごとに血液検査や呼気中一酸化窒素を参考にして推測します。また、この中にはぜん息以外の重症アレルギー疾患(じんましん、花粉症、アトピー性皮膚炎、鼻茸・慢性副鼻腔炎)にも効果が期待されて保険適用となっている薬剤もあるため、投与を検討する際には他のアレルギー疾患の合併があるかどうかも考慮します。
他の治療薬に比較すると薬価が高いのが難点ですが、患者さんによっては劇的な効果がみられることもありますので、「どうせぜん息の症状だから」と諦めることはせず、主治医に相談してください。
ぜん息の薬の内容や吸入器の上手な使い方については、以下をご覧ください。
このページは東京都 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報担当が管理しています。